市場が大きくなるからと言って、参入すれば儲かるとは限らない。東京商工リサーチがまとめた2018年上半期(1~6月)の「老人福祉・介護事業」の倒産状況によると、上半期の倒産件数は45件となり、年上半期での最多記録を更新したという。プラス0.54%だった2018年度の介護報酬改定も、特に小規模事業者にとっては事業を継続するまでには至らなかったようだ。


 今後はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、市場拡大が有望な施設の倒産も増えるかもしれない。サ高住は“アパマン経営”と同じで借り手の相場観に合わない施設をつくっても、部屋を埋めることができない。このようなビジネス感覚が“社会貢献”“市場拡大”というマジックキーワードのおかげで薄れてしまっているような気がしてならない。


 ヘルスケア産業でビジネスを成功させるには、①行動変容、②顧客(医療従事者など)のリスト、③誰がお金を払うのが明確――の3つのポイントを押さえる必要がある。


 例えば、独居の高齢者が増えるから見守りのビジネスが儲かるんじゃないかと考える。見守りをするためには、何かしらのデバイスが必要になる。ここで問題となるのは、そのデバイスを誰に負担させるのか?ということだ。高齢者に負担させようと考えたなら、そのビジネスは頓挫することになる。


 厚生労働省の「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」(保険外サービス活用ガイドブック)のなかで、最も要介護度の高い患者を対象としている(※図参照)ホスピタリティ・ワンの「オーダーメイド型訪問看護(保険外型の訪問看護)」は、看護師1人1時間6000円(4時間以上)と高額だが、医療・介護保険ではカバーされていないニーズを満たすサービスとして注目を集めている。病院から患者を紹介され、患者の家族が支払うことになる。 


 この図のほぼ真ん中にある「ベンリー・コーポレーション」も成長を続けている。社名からも想像できるように便利屋のチェーン化に成功した企業だ。明石仁十病院や黒沢病院(美心会)などの病院や調剤薬局がフランチャイジーに名を連ねている。


 依頼内容は、家具等の移動・運搬などのファニチャーサービスが多く、なかには「待つのが嫌だから診察券を入れてきてくれ」というものまであるそうだ。


 医療機関や薬局がなぜ便利屋をやるのか?ひとつは、“囲い込み”が大きい。例えば、薬局であれば薬剤師が便利屋の作業をするわけではないが、在宅訪問が必要になったときに、「うちのグループの薬局に」と話がしやすくなる。とにかく、高齢者の自宅に入ることができるのがポイントだ。 


 いずれにしても、保険外のビジネスは金銭的に余裕がある層がターゲットになりそうだ。製薬企業が保険外のサービスを展開するのは難しいかもしれないが、医薬品卸が手掛ければ、本業との相乗効果が期待できるかもしれない。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。