なぜ、私に「地域包括ケア」や「働き方改革」をテーマにした講演を依頼してくれるのだろうか?と考えてみた。いずれのテーマにも共通点がある。それは“正解がない”ということだ。私の話をきっかけに、自分なりの答えを出してもらえるように心がけている。


 先週は、某外資系製薬企業の所長向けに「医薬品業界の変化にどう対応するのか? 我々に何ができるのか?」をテーマに、丸一日(6時間)研修をさせていただいた。


 研修では、参加者が正解にたどり着くための方向性を示すことができるが、研修後に参加者に行動してもらえないと、研修自体が無駄になってしまう。そのため、本コーナーでも何度か触れた「現状維持バイアス」について▼自分▼部下▼得意先の先生――それぞれの現状維持バイアスを書き出してもらった。


 


  まずは現状維持バイアスを“見える化”することが重要だ。


 参加者に書き出してもらっているさなかに、現状維持バイアスを打破するのに役立つ方法が思い浮かんだ。


 1つは、「未来インタビュー」だ。これは、部下が目標を達成した(例:難攻不落のA病院に自社製品を採用してもらった)未来を前提に、「なぜそれができたのか?」とインタビューする手法である。部下が答えられなければ、成功するためのやり方がわからないことを意味するので、ほぼ達成することはあり得ない。上司がさまざまなサポートをする必要がある。


 2つめは、「違うミッションを与える」ことだ。例えば、医師に面談する事前準備に力を入れないMR(営業所内の全MRを対象)に対して、面談時間をスマホなどで測定させて報告させることを義務づけると、いかに自分の面談時間が短いのか認識させることができる。また、各MRに「先生に喜んでもらったこと」を所長が聞くことを習慣づければ、MRは先生に喜ばれる活動を意識するようになる。


 3つめは、「スモールスタートを切らせる」ことだ。目標がレベル「10」だとしたら1/10の「1」のレベルの目標を設定して達成するようにサポートし、それば達成したら「2」を目標にするというように、少しずつ自信をつけさせ、心のブレーキを外してあげるのだ。


 4つめは、「面白いルール(罰ゲーム)をつくる」ことである。例えば、「毎週月曜日は製品の話を一切してはいけない」として、1日の最後に皆でどうだったかシェアしてもらうと面白いだろう。ほかにも、「何も決定しない会議を行ったら1ヵ月会議禁止」などがオススメだ。 


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。