優れたリーダーがどのように成長するのかという研究で、「仕事の経験を重ねて成長する」が7割、「上司の薫陶によって成長する」が2割、「研修によって成長する」が1割――だったという話を聞いたことがある。絶妙なバランスだと思う。


 22~60歳の勤務時間は合計約7万時間、そのうち研修時間は約1%しかない(製薬企業の場合は倍以上あるだろう)。しかし、成長の効果は全体の1割もある。研修が成長に重要な役割をしていることがわかる。


 MR向けの研修をする際は、“MRの3大栄養素”のワークを行ってもらう。MRの3大栄養素は▼情報(MRとして必要な情報をどれくらい得られているか)▼仲間(支援・刺激し合える仲間がどれくらいいるか)▼ありがとう(顧客〔医療従事者・卸MS・コプロ会社〕や仲間から感謝される仕事がどれくらいできているか)――によって構成されている。


  


 参加してくれたMRの記述をのぞき見ると、面白いことに「情報」の欄には多くのMRが50%以下の数値を記入しており、なかには「5%」などの1桁を記入するMRもいる。研修に他業界よりも多くの時間を割いているはずなのに、どうしてMRたちは低い数値を記入するのか。  それは、時間をかけている研修の内容と顧客である医師や薬剤師のニーズとの間に大きなギャップがあるからではないか。もうひとつの可能性は、自己学習の“場と機会と意欲”の低さだ。画一的な研修は最小限にして、今の自分と顧客に必要な研修をMRが自ら探し出すような制度と社内の風土がこれからは必要になってくるはずだ。


 そのためには、“残りの9割”の影響力を持つ顧客と上司との関係性が重要になる。まず、7割の「仕事の経験を重ねて成長する」部分だが、これは顧客から「期待」されて「ちょっと無理かもしれないけど、このMRなら何とかしてくれるかもしれない」と期待を持っていただけるような関係性・人間性を築いていく必要がある。そうでなければ成長できるような仕事を日々の活動のなかで重ねていくことはできない。


 ここで重要になるのが2割の重要性を持つ「上司」だ。「MRの仕事は会社から言われた情報を伝えるだけではない。先生に課題をいただき、一緒に悩むことで成長するんだ」と指導できるかどうか。


 上司の仕事は部下を成長させることである。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。