米トランプ大統領が中国からの輸入品に25%の関税を課す対中制裁の理由に「知的財産の侵害」を挙げている。この対中制裁第3弾のとき、ドイツのテレビ局が中国に進出しているドイツ企業にどう思うかインタビューしていた。多くのドイツ企業が中国に進出しているし、ヨーロッパでは中国の投資を歓迎している国も多いから、トランプ大統領が打ち出す高関税に批判的だろうと思っていたら、違った。インタビューを受けた企業は「中国は重要な市場だが、中国政府は『技術を移転しろ』と迫る。技術を無償で移転しなければビジネスができない。不公平な国だ」と批判的だった。中国に比較的友好的なヨーロッパ企業も本音では批判的なようだ。


 実は、中国に進出した企業はほとんど中国政府からの制裁を恐れてか、口をつぐんでいるが、中国の経済政策は知的財産を強奪することで成り立っている、といっても過言ではない。発展途上国が先進国になる、あるいは、先進国に並ぶには、巨額の資金と最新の技術が必要である。中国の場合、資金は日本の経済援助と日米欧の投資である。戦後、日本はアジア各国に賠償金を支払ってきた(朝鮮半島の半分はまだ未払い)が、対中国では当時の政府、中華民国の蒋介石総統が「暴には徳をもって報いる」と宣言し、対日賠償請求権を放棄したのはご存知の人も多いはずだ。国共内戦で蒋介石と国民党を台湾に追い出し、中国全土を支配した中国共産党政権も蒋介石の宣言を引き継いだが、日本はその恩義に対し、10年間に1兆2000億円の経済援助で応えた。この経済援助が中国発展の重要な資金になった。


 もうひとつの技術の取得は、日中友好の名で最新鋭の製鉄所建設やJRに協力させた新幹線技術、友好のモデル事業としたパナソニックの工場などが挙げられるが、ほとんど語られていないのが先進国の中国進出である。かつて鄧小平党主席が盛んに「中国には13億人の市場がある」と投資を誘ったことを覚えているだろう。当時の中国はまだ貧しく購買力は低かったが、13億人の1割が富裕層としても日本と同じ規模の市場だと感じ、多くの企業が進出した。が、ここに中国の“ずるい”、いや“賢い”知恵がある。中国進出企業は中国側から条件を付けられたのだ。  まず1つ目の条件は、中国企業との合弁であることだ。出資比率は50%以下で、中国側は土地を用意し、進出企業側は工場建設と設備費用を出すように要求された。今、2022年までに規制を撤廃することになったが、100%出資の子会社を設立することは認められなかった。中国では土地は国家の所有だから、中国側の合弁相手は資金負担なしで合弁事業を行えた。


 2つ目は最新式のもの、自動車なら最新型の乗用車を製造することで、製造した自動車の半分を輸出することを求められた。最も早く中国進出していた独フォルクスワーゲンは旧型車を生産していたから、進出企業に最新型の車を望むのはわかる。だが、生産した車を輸出するかどうかはメーカー側の判断であるべきだ。半分を輸出しろ、というのは中国側の外貨獲得手段としか見えない。現在、中国が“世界の工場”になったのは低賃金だったこととともにこうした規制によるものだ。


 3つ目は、最も重要なことだが、中国側に技術移転をする条件である。タダで技術を手に入れる方法だ。


「これらの条件受け入れなければ、進出を認めない」というのである。ある自動車メーカーの幹部は「ライバルメーカーはもちろん、欧米のメーカーも中国に進出しているから条件を飲まざるを得なかった」という。こうして中国側は「13億人の市場」をエサにして先進国から投資と技術を手に入れたのである。前出のドイツ企業が技術を移転しなければ進出できなかったと語っていたから日本企業と同様の条件を飲まされたのだろう。


 それにしても、さすが大国・中国だ。特許料など一切、カネを払わずに最新の技術を手に入れたのだ。中国4000年の知恵なのか、頭のよさに感服するしかない。


 今、中国は「世界の大国」を豪語しているが、経済発展を遂げたのはこうした資金と技術取得によるものだ。もちろん、中国の技術取得にはハッキングで盗んだものもあるし、留学生やアメリカ企業で働く中国人研究者が中国に呼び戻され技術流出する例もある。が、トランプ大統領が中国は知的財産をタダ取りしていると主張するのも嘘ではない。(常)