幸い健康には恵まれているものの、それでもたまに病院のお世話になることはある。たまに、だからこそ目に付くのかもしれないが、予約をしていても延々と待たされたにもかかわらず、診察は“一瞬”にして終わることも珍しくない。


 偉そうだったり不愛想だったり。以前に比べると、だいぶ説明が丁寧になった気もするものの、素人の素朴な疑問に「面倒くさい」とばかりの顔をする医師も多い。


 イラっとすることがあっても、通院が終われば忘れてしまう。そのため、あまり深く考えてはいなかったのだが、同様の印象を持つ患者は少なくないようだ。こうした患者の声をもとに、さまざまな疑問に丁寧に答えているのが、『医者の本音』である。


 かなり前から有効性が否定されている風邪への抗生物質の処方、高齢者への多数の薬の処方、インフォームド・コンセントの実態……。本書は、わかっていても起こってしまう不都合の裏側を医者の立場から解説している。


 薬が増える(とくに高齢者が顕著)理由として記されているのが、複数の医師にかかっていても、〈全体のバランスを考えるリーダーが不在〉であることだ。  著者はこの状況を〈指揮者のいないオーケストラ状態〉になぞらえる。実際、複数のクリニックにかかっていても、通常はそれらの医師が連携していることはない(大学病院などでは複数の診療科が連携していることはある)。薬の多さの問題だけにとどまらない、少々怖い話だ。


 ちなみに、〈患者さんは「おくすり手帳」を医者に見せますが、医者は薬が重複しないことをチェックするだけで、薬の数など気にせずに処方することが多い〉のだという。


■がん患者の多くが代替医療 


 がん患者などを手術する外科医だけに、がん患者とのコミュニケーションのとり方や手術に臨む心構えや術にかける音楽などがつづられていて、臨場感も十分だが、本書で目をひいたのは、現役医師があまり触れることがない代替医療への言及だ。

〈多くのがん患者さんが何らかの代替医療を実際にやっている〉。その額は〈平均して月に5万7000円〉だという。この金額を多いとみるか少ないとみるかは人それぞれだろうが、〈代替医療を選ぶ人は高学歴や経済的に恵まれた人々〉なのだという。


 近年だと女優の川島なお美さんが代替医療を行っていたことが話題になった。私の恩師も経済的に恵まれていたと記憶しているが、がんで亡くなる間際に「祈祷」など、かなり怪しげなものまで手を出していた。


 代替医療の多くは、ある程度のお金がかかるケースが多いだけに、経済的に恵まれた人が手を出すのは納得できる。加えて〈「治療の効果は、お金を出せばもっといいものになるに違いない」/そう思った人が、高額ながんの代替医療を選んでいるのかもしれません〉という意識も働くのだろう(高額なスポーツジムに通う人も似たようなところがある)。


 それだけお金をかけても、5年生存率で比較すると、代替治療を受けた人は〈2.5倍もの高い死亡のリスクがあった〉という。昨今、標準治療への批判を目にすることもあるが、やはり客観的なデータによる評価は無視できないものがある。


 著者は、医療費抑制の観点から、これから医療の世界が変化していくことを予想しているが、「死に場所」もそのひとつ。アンケートをとると、半数を超える人が「自宅で死にたい」と考えているが、現在、自宅で亡くなっている人は約1割にすぎない。しかし、今後、医療費が増えていくと、この状況を支えられなくなるようだ。


 もっとも、自宅での看取りは簡単ではない。〈家でのお看取りのための体制作りは急務〉である。かつては多く人が自宅で亡くなっていたとは言え、医療の側も一般の人もその経験はなくなっている。加えて昔と違って、一人暮らしの高齢者や、親族のいない人も増えているだけに、家族を前提としない仕組みを設計していく必要がある。


 本書を読んで改めて感じたことだが、勤務医の労働実態はあまりに過酷だ。このところ医学部の受験で女性の差別が話題になっているが、その根源には、私生活を犠牲にせざるを得ないほどの働き方がある。勤務医は、昨今話題の“働き方改革”が最も必要な職業ではないだろうか。(鎌)


 <書籍データ>医者の本音』 中山裕次郎著(SB新書820円+税)