あれ?ここ前に来たことがあるような気がする――。「未体験の事柄であるはずが、過去にどこかで体験したことがあるかのような感覚を覚えること」を“デジャブ”という。日本語では「既視感」とも言われ、ビジネスにおいては提案が採用されない理由としてよく使われる言葉だ。私の場合は、この人と以前にまったく同じやりとりをした記憶があるというデジャブをよく経験する。


 このデジャブの逆の意味として“ブジャデ”というものがある。このブジャデは、3つくらいの意味で伝えられることが多いようだ。


 1つめは、デジャブとは逆に「いつも見ているのに、まったく認知していないこと」である。若い頃、「MRで誰も笑顔を見たことがない」という女性薬剤師を取材した。名刺交換した際に、ビーズのネックレスが目に入った。「素敵なビーズのネックレスですね」と話しかけたら、彼女は満面の笑みになった。数百人のMRが彼女のネックレスを見ていたはずなのに、誰も気づかなかったのだろうか。地域包括ケアへの取り組みも、自分のエリアで少しずつ進んでいても、認知する気がなければ気づくことができない。見つけようという気持ちがなければ、そこにあっても見えないのである。


 2つめは、「いつも見慣れている風景の中に、新しい面を発見すること」である。先日、所長向けに研修した際に、ある女性所長が「あまり乗り気ではない講演会の企画を、『これまでやってきたから』という理由で続けてしまっている。本当は潜在化しているニーズにあった新しい企画を提案するべきなのに」と話してくれた。


 いつも見ているもの(やっている企画・仕事)をまったく別の視点でみるということが重要だ。例えば、自社領域×認知症、自社領域×がん、自社領域×AIなど、既視感の薄い講演会などを企画することにより、得意先の先生方との関係性がワンステージ上がるかもしれない。


 3つめは、「何回も経験し、見たりしているのに初めて体験するような感覚を持つこと」である。コミュニケーションを阻害する最悪のフレーズが「それ、知ってる」だと思う。このフレーズを言われると、「これ以上話を展開するのはやめよう」と思ってしまう。常に「こんなの初めて」という新鮮な気持ちでコミュニケーションを取ることをオススメしたい。今週面談する医師に対して、初めて会うような気持ちで事前準備をしてみよう。相手の態度も変わったものになるはずだ。


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 川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。