「医療の構造改革『変わるのは、今だっ!』」という自身の講演タイトルについて「予備校の講師みたいですが」と自虐的に講演をスタートさせた厚生労働省の鈴木康裕医務技監。聴講者は、10月27~28日に郡山で開催された第56回日本医療・病院管理学会学術総会に参加した病院管理のプロたちだ(鈴木技監の特別講演は28日に行われた)。
鈴木技監が「あまり話題になっていないけれど……」と前置きしたうえで紹介したのが、2018年度診療報酬改定で新たに12の術式が保険適応になった「ロボット支援下内視鏡手術」だ。保険適用が一気に拡大したことがポイントではなく、その点数だという。例えば、胃がんでは「腹腔鏡下胃切除術2 悪性腫瘍手術:64,120点」という点数なのだが、18年度改定では「内視鏡手術用支援機器を用いて行った場合においても算定できる」とされた。つまり、高額な“ダヴィンチ”を使っても“既存の技術と同じ評価”となったのだ。
この「意味」について鈴木技監は、「既存技術と比較して優位性を示せなかったということ。これからは(コストベースではなく)患者への価値に基づいて価格を決めるというメッセージだ。病院にとっては(高コストになるので)不利だと思う」と述べた。
日本のMRIとCT台数が、欧米諸国と比較して突出しているのは周知の事実だ。「厚生労働省が規制をしなかったから病院間で(MRI・CT保有)競争が起きてしまった」と反省し、「ダヴィンチなど今後の高額機器はMRIやCTと同じようにしてはいけない」と指摘した。
私見と断ったうえで、鈴木技監は将来の方向性を4つ示した。
1つめは、「Outcomeに基づく評価」だ。在宅復帰率や3ヵ月間の血糖コントロールの改善率などで評価されるように改める。
2つめは、「Best mix professional」だ。医師は診断して診療方針を決定し、フォローはほかの職種が行うといった業務内容に応じたタスクシフティングが求められる。
3つめは、「Precision medicine」だ。ゲノム医療の進歩により、慢性疾患も遺伝子型により重症化や合併症発現リスクに応じた疾病管理が可能になる。
4つめは、「ICTの推進」だ。これについては18年度改定においても評価が進んだが、電子カルテベンダーが多すぎること、クラウドを活用していないこと、カスタマイズが複雑なことなどについて苦言を呈した。
ダヴィンチを語る際に鈴木技監が触れた「患者への価値に基づいて価格を決める」という言葉を信じれば、これからの医薬品産業には希望の光が見える。 “患者をなくす”ハーボニーについて鈴木医務技監は、「ほぼ100%治るので対象が減るだけでなく、肝硬変や肝がんも減少させることが期待される。そのような側面を含めて(薬価を)評価すべき」と指摘したのだ。「患者への価値」がこれからの医療制度改革のキーワードになりそうだ。
なぜ、「変わるのは、今だっ!」なのか?その理由には①人口構造、医療ニーズの変化、②財政状況の悪化、③医療技術の急速な進歩、④医師の働き方改革――の4つがあるという。特に関心があるのが働き方改革のようで、「100床当たりの医師数は米国の1/4しかない。基本的な構造に問題がある。中長期的には解決しないといけない」と語り、現状の医療提供体制が医師の過重労働の原因のひとつであることを示唆した。働き方改革関連法が施行(医師は5年後)された後に違反すれば、雇用主は懲役刑が科せられると警鐘を鳴らすことも忘れなかった。
そして最後に「茹でガエルになってはいけない」と、高齢の研究者が中心だった参加者にメッセージを送った。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。