看護師は、今も昔も女性の仕事として人気の仕事のひとつだが、その世界をコンパクトにまとめた一冊が『看護師という生き方』である。自身や家族が通院したり、取材で出会ったり、旅先で知り合いになったり、これまで、さまざまな看護師を見てきたが、本書はどちらかと言えば、志の高い“王道”の看護師の実態を描いた一冊だ。


“白衣の天使”の言葉から来る、柔らかいイメージとは裏腹に、看護師は〈3Kどころか6Kともいわれる仕事です。「婚期が遅れる!」をプラスして7Kだという看護師もいるくらいです〉という。6Kとは、「キツイ」「危険」「汚い」「帰れない」「厳しい」「給料が安い(仕事の量や質のわりに)」である。


 もっとも、仕事は厳しいものの給与水準は、〈女性平均と比べると100万円ほど高い〉。看護師が女性に人気を集める理由のひとつだろう。著者が〈メリットだらけ〉という公務員看護師は、夜勤の手当てなども含めると、地方では相当な高給取りとなる。財政難で以前より水準が下がった自治体もあるが、それでも民間より条件がよいことが多いようだ。


 それだけではない。〈結婚をしても、どの場所に行っても、子どもがいても本人のやる気さえあれば働き続けることができる。そしてキャリアアップすることができる。独身でも一生働ける安定感があり、生きていける自信がつく。どんなライフステージの女性でも輝ける仕事、それが看護師なのだと思います〉。“食えない資格”が増えていくなかで、看護師に対する社会的なニーズが高いことの証左であろう。


 妙に納得感があったのが、看護師の結婚の実態だ。〈人を助けるという点で共感できるためか消防士や自衛官、警察官と結婚する看護師は意外と多い〉〈看護師に安定した収入があるためか、カメラマンやデザイナーなどフリーランスや自営業の男性と結婚する人も多い〉という。実際、 “夢追い人”と結婚して、夫を養っている看護師の話はよく聞く。


 少子化や大学の定員の増加に伴って、以前は大卒が皆無だった職業にも大卒の人が増えているが、看護師の世界でも高学歴化が進んでいる。本書によれば、〈1991年度11校だった看護大学は2018年現在、226校と27年間で20倍になっている〉という。〈看護師の養成学科を設けることは、大学にとって学生募集の大きなウリになるから〉である。


■昔は「看護師は独身」の時代も


 時代とともに職業のあり様は変化していく(不要になれば消える)が、看護師の世界も大きく変化してきたようだ。


 驚くことに〈1950年代まで「看護師は独身」という風潮〉があった。〈かつて男性の看護師は「看護士」、女性は「看護婦」と呼ばれて〉いて、男性の看護士はかなりの少数派だった。看護師が掃除や患者の食事の調理をしていた時代もあったようだ。以前はナースキャップが看護師のシンボルだったが、〈今では衛生面から臨床現場でナースキャップを廃止する病院が大半〉となった。


 今後、看護師の需給は、医療や介護の制度の影響を大きく受けそうである。


 2014年の診療報酬改定では、入院患者7人に1人の看護師を配置するいわゆる「7対1病床」を減らす方針が打ち出された。多くの看護師を必要とする7対1病床の病院が減れば、看護師が余ってくる。これは、需給が緩む大きな要因だ。


 本書では、有床診療所の減少などのトレンドも考慮して、2025年に病院勤務看護師が14万人も減少するとの試算を紹介している。


 逆に需給が締まる要因の筆頭は、高齢化のさらなる進展だろう。政府は介護を施設から自宅へ移行させる方針だが、日本看護協会の試算では、〈現在13%前後で推移している日本の在宅死をオランダやフランスなどと同水準の30%前後にまで引き上げる場合、「訪問看護に携わる看護職員は約15万人が必要だ」〉という(現在は約3万人)。


 科学技術の進歩や需給構造の変化に伴い、必要とされる看護師の姿はこれからも絶えず変わっていく。ただ、著者が記すように、〈それぞれ異なる患者さんの心身の状態を確認し、心を通わすケアを行う。これは人間でなければできない〉。看護師という仕事の中核に「コミュニケーション能力」があることは、将来も変わることがなさそうだ。(鎌)


<書籍データ>

看護師という生き方

近藤仁美著(イースト新書Q 840円+税)