BS・CSの民間放送を見ていると、番組の提供と通販の情報源としての重みが半々なのではないかと感じてしまう。商品の認知やイメージづくりより、直接販売を受け付けるCMが実に多いからだ。特に、保健機能食品やいわゆる健康食品は主要な柱のひとつとなっている。内容は、便秘、関節痛、筋力や視力の衰え、肌の乾燥、血圧・血糖高値、脂質異常など、高齢者や女性が気にかけている健康問題に訴えかけるものが多い。
◆機能性表示食品3年半の傾向は
わが国では1991年に特定保健用食品(トクホ)、2001年に栄養機能食品の表示許可が制度化された。
おさらいすると、トクホは「食生活において特定の保健の目的で摂取する人に対し、摂取すればその目的が期待できるという表示をする食品」、栄養機能食品は「食生活において栄養成分(ビタミン、一部のミネラル、n-3系脂肪酸)の補給を目的として摂取する人に対し、その成分の機能(定められた定型文)と、当該製品には確かにその成分が入っているという表示をする食品」だ。「食生活において」が案外ミソで、決して病気の治療代わりにはならないし、してはいけない。
今の日本では、生活習慣病予備軍でない成人の方が珍しく、「通院するほどではないが日々の食生活で手軽に健康問題を解決・改善したい」と思う人は多い。そんなニーズを背景にしてか、2015年のトクホの市場規模は約6,400億円、栄養機能食品といわゆる健康食品まで含めると1兆5千億円に達したとの試算もある(山田ら、日本栄養・食糧学会誌、2017)。
ただ、トクホは申請から表示許可までに時間と費用がかかり、中小企業が参入しにくかった。そこで規制改革実施計画および日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)で取り上げられ、第3の保健機能食品として2015年4月から制度化されたのが、機能性表示食品だ。実際のところ、制度創設後2年間の実績(2017年3月末現在)では、届出者236法人のうち、資本金1億円未満の企業が46.2%を占めたとの分析がある(湯田、健康・栄養食品研究、2017)。
機能性表示食品制度の最大の特徴は、販売の60日前まで消費者庁長官に対して必要な情報の届出を行えば、届出者の責任において食品の容器包装に機能性を表示できることだ。「トクホよりハードルを下げて企業に売らせようとしているんじゃないか」と穿った見方もできなくはないが、創設した側はそうではないことを強調している。
基本的な考え方は「安全性確保」、「機能性表示を行うにあたって必要な科学的根拠の設定」、「適正な表示による消費者への情報提供」を踏まえ、消費者の誤認を招かない自主的かつ合理的な商品選択に資するものだというのだ。そのために、消費者庁のサイトで届出情報を検索できるようになっているのもひとつの目玉だ。
◆消費者の判断の決め手は
2018年11月現在、機能性表示食品の届出数は1,563に達している。そのほとんどは加工食品だが、最終製品を用いたヒト臨床試験や研究レビューを機能性の科学的根拠としている製品は少ない。
ただ、消費者自身が制度の趣旨や製品のエビデンスを理解して商品選択しているかといえば、そうではなさそうだ。
制度発足から約1年を経た2016年3月下旬に行われた大規模インターネット調査(有効回答3,091サンプル)で、機能性表示食品について、「どのようなものか知っている」(以下、理解)人は13.2%、「名前を聞いたことはあるが、どのようなものか知らない」(以下、名称のみ)は52.7%、「知らない」は34.1%だった。いまや四半世紀の歴史があるトクホですら、理解28.6%、名称のみ52.7%、知らない18.7%だった。
また、健康食品を摂取する際に、「保健機能食品(トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品)を理解したうえで選択している/あえて選択していない」人、「意識していない」人、「保健機能食品を含む健康食品を利用していない」人が、回答者の各3分の1だった。(いずれも消費者庁、機能性表示食品制度に対する消費者意向等に関する調査事業報告書、2017)。
最近、面白いなと思った製品は森永乳業の「トリプルアタックヨーグルト」だ。金色っぽい黄色のパッケージで、商品名以上に目立つキャッチ(「塩・糖・脂の食事が多い現代人」や「生活習慣サポート」)がデザイン化されている。
原材料として、難消化性デキストリン、ラクチュロース、乳たんぱくペプチドなどが表示されているにもかかわらず、トクホでも機能性表示食品でもない。 機能性表示食品であれば、「本品は、事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして、消費者庁長官に届出されたものです。ただし、特定保健用食品と異なり、消費者庁長官による個別審査を受けたものではありません」など、複数の長文表示が義務づけられた文言があり、パッケージがごちゃごちゃしてしまう。
「保健機能食品である」ことの代わりに、商品そのものの位置づけを明確にして、インパクトの強いルックスでアピールするという選択も、企業戦略としてはアリなのかとも思う(玲)。