「製薬企業の人たちって、初回は来るんですよ。でも、初回だけなんです。2回目以降は参加されないですね」――。先日参加した在宅医療関連の地域勉強会で主催者に言われた言葉だ。参加者の多くは在宅医か訪問看護師。講演を聴いた後に、テーブルごとに参加者がディスカッションするというスタイルだった。


 なぜ、2回目以降、参加しなくなるのか?「自分には、この場(コミュニティ)に与えられるものがない」と感じ、居場所がない心理状態になるからではないか。ほかにも、開業したばかりの在宅専門医が「在宅の患者さんには、薬を与えるよりも仲よくなったほうが、状態がよくなるんですよ」と話していたように、薬物療法にあまり依存しない関係者が多く、製薬企業との距離感も大きい。


 以前お伝えした「地域包括ケアにコミットする4つのレベル」で言えば、このような地域の在宅医療研究会に常時参加できるマインドは、レベル4の「地域包括ケアの一員となる」に相当する。


 もう一度、4つのレベルを紹介すると、レベル1は「地域包括ケアって何なんだろうね?」「この地域には関係ないんじゃないの?」とまったく客観的なデータを見ずに他人事として捉えているレベルである。最近は地域医療構想の動きが出てきたため、このレベルの人は少なくなってきた。


 レベル2は▼客観的な地域の情報を共有する▽問題・課題を見える化する▼「10年後のアウトカム」を改善するために、どのような取り組みが必要になるのか、意見交換をする――など、「地域包括ケアって、そういうことだったのかぁ!」と認識するレベルだ。


 レベル3は、企業レベルでは自治体などと連携協定を締結して「エリア・マーケティングを実践していく」レベルである。なかでも、GSKが沖縄県及び慶應義塾と締結した包括的連携は、ビッグデータとICT基盤を活用した取り組みであり、疾患予防・治療などについて、よいアウトカムを創出することが期待できる。


 この1~3のレベルを経て、初めてレベル4の「地域包括ケアの一員となる」というレベルになる。冒頭で紹介した初回だけで2回目以降参加できない製薬企業の人は、どこかのレベル(プロセス)が抜けていたのかもしれない。


 1~3のレベルをクリアしても、まだ自分には彼らに提供できるものがない。だから地域包括ケアの会に参加し続けられないという真面目なMRに伝えたいことがある。会に参加し、医師や看護師などの悩みや愚痴に耳を傾けるだけで価値がある、と。そして聞いたことをその会に参加していない他のMRなどにシェアするのだ。


 地域包括ケアにまったく関心のない人に“地域包括ケアのリアル”を語り、その人を「レベル2」に導いてあげよう。 


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 川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。