「PMDAは、データサイエンティストを大募集中です。しかし、データを解析して論文を書きたいというだけの人はいりません。どうすれば役立つデータベースをつくれるのか、今後の日本の医療データをどうしていくのか。そのために一緒に考えていただける人に来ていただきたい。一緒に悩んでいただける仲間になっていただける人に応募していただきたい」――。PMDA医療情報活用部の宇山佳明部長は11月17日、都内で開催された第2回ヘルスデータアナリティクス・マネジメント研究会(一般社団法人ヘルスデータサイエンティスト協会主催)で講演し、求められる人材について質問された際に、“一緒に悩める人”と答えた。


 宇山部長は国の医療情報データベース基盤整備事業で構築されたデータベースシステムMID-NETが生まれた背景について、「ドラッグラグが解消し、医薬品の世界同時承認が増加している状況では、他国における市販後の情報がなく、我が国において、市販後の医薬品安全性評価の重要性がこれまで以上に高まっている」ことを挙げた。


 なぜなら、承認時のデータは次の“5つのToo”があるからだ。


①通常は1000例程度の限られた患者から収集された情報である(Too few)


②年齢や併用薬、合併症などに制限が加えられた患者群からの成績である(Too simple)


③投与期間も長期ではない(Too brief)


④小児や高齢者などへの適用例は少ない(Too median-age)


⑤腎機能障害や肝機能障害を合併する患者や妊婦は除かれ、評価は専門医により行われる(Too narrow) MID-NETには大学病院を中心に10機関23病院がデータ提供に協力しており、今後は「あと10病院の増加を予定しており、別のデータベースとの融合も考えている」という。民間のRWDには少ない“検査値”があるのがMID-NETの強みだ。電子カルテデータ、レセプトデータ、DPCデータが統合されている。しかし、現状では来院前・転院後の他の医療機関での情報等が得られないため、ひとりの患者を長期に追跡できないことなど、短所も小さくない。


 市販後の安全対策を中心に構築されたMID-NETだが、研究会の参加者から「適用外使用の実態を垣間見ることができるのではないか」「診療ガイドラインが正しいのかどうか」など、新たな“発見”を期待する声も届けられた。


 約400万人分超のデータを利活用すれば、そのデータを解析して次々と論文を書くことは確かに可能だろう。


 しかし、求められるのは、この巨大なデータをどのように生かせば、日本の医療の質が向上するかという人材であり、視点だ。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。