今年もはや師走。個人的に1年を締めくくる注目ワードを選ぶとしたら、筋肉体操と人生会議だ。


 ◆高齢者こそ必要な筋トレ 


2018年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉のひとつが「筋肉は裏切らない」。8月末にNHKで4日連続放送された5分番組『みんなで筋肉体操』の決め台詞である。円筒の台上で筋トレのお手本を見せるのが、俳優、スウェーデン出身の庭師、コスプレイヤーの新人弁護士という奇抜さや、指導者の「(力を)出し切る」「(筋肉を)追い込む」「あと5秒しかできません!」といった声かけがシュール過ぎて、新手のコント番組かと思ったほどである。


 ぴたぴたのトップスで逆三角形を妙に強調したこの指導者・谷本道哉氏(近畿大学生物理工学部准教授)は、運動生理学者だ。阪大工学部を卒業し、大手建設コンサルで働いていたときに、『月間ボディビルディング』の連載で、東大大学院・石井直方教授による学術的に整理されたトレーニング法を目にして衝撃を受け、その研究室に入学。国立健康・栄養研究所の研究員を経て現在に至っている。


 現代の日本人はメタボが問題となる中年世代を過ぎると、サルコペニア(筋肉量減少、筋力低下)→ロコモ(運動器症候群)→フレイル(虚弱)というカタカナ症候群のリスクに直面する。筋肉・骨などの運動器が衰え、自立した生活が困難になると、心身の脆弱性が増す、という悪循環に陥りかねない。


 これに対し、谷本氏らの研究テーマのひとつに「高齢者の筋肉トレーニングと生理学的応答」がある。筋肉の衰えは30代から始まっており、早期に筋トレ習慣をつけるのが理想だが、高齢者でも決して遅くはない。筋トレの効果は貯蓄できないので、過去の栄光にすがって現在は体を動かしていない元運動部系の方がむしろ危ういという。


 谷本氏自身が無理な筋トレで体を傷めた経験から、高齢者を含め一般の人には、通常の速度の半分程度のスロートレーニング(スロトレ、3秒下ろし・3秒上げのスクワットなど)を指導している。腿の前後・尻・下半身全体を鍛えられるスクワットを基本に、体幹を支える腹筋・背筋と、上半身を鍛える腕立て伏せの4種目を適宜組み合わせて、毎日約10分ずつ続ける。ただし、きちんと効果を出し、回復の効かない関節を守るためには正しい方法で行う必要がある。


「筋肉自慢」のための過度なトレ-ニングとは一線を画す筋トレが、これからの「高齢者の常識」になりそうだ。


◆早くても遅くてもいけない「人生会議」 


 人生百年時代には、随意筋だけでなく不随意筋の衰えも問題になる。それを痛感したのが、80代の母の入院だ。もともと腎機能が低かったところへ傾眠傾向が見られ、「体力が落ちて疲れているんだろう」くらいに思っていたら、かかりつけ医への受診時に糸球体濾過値等が急激に悪化していることがわかった。緊急入院後に精査したところ、膀胱脱のために腹圧をかけても尿がちゃんと出ていなかったことが原因と判明した。


 リング挿入により、低空飛行ながら元の数値程度に戻り退院したが、骨盤臓器脱は女性にとって健康寿命を短くする要因になると再認識した。


 11月18日のNスペ『命の終わりと向き合うとき』では、救命救急センターに80代以上の高齢者が次々と搬送されていること、認知症になっても透析を続ける人がいることが報じられていた。自分の母も、すぐ検査・入院する方法がない時代や環境ならそのまま亡くなっていた可能性がなきにしもあらず、と思う。主治医は「できる限り透析導入をせずに天寿を全うするのが最善ではないか」と言うが、限界がきたときは決断をしなければならない。


 そんな時代を映す言葉がアドバンスド・ケア・プランニング(ACP)だ。人生の最終段階における医療・ケアについて、事前に本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組みを指す。2018年3月に厚生労働省がとりまとめた『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』に引き続き、8月中旬から約1か月間、ACPの愛称を公募し、この11月30日に「人生会議」に決定した。


 人はいつ致命的な病気に罹ったり、事故に遭ったりするかわからない。とはいえ、早すぎる「人生会議」は現実感が薄く、死に直面してからでは生々し過ぎる。不惑以降の節目年齢や、年男・年女などの区切りを自分や家族の意思について話し合う機会にするとよいのかもしれない(玲)。