呼気で疾患をスクリーニングするガスセンサ▼人とコトをつなぐAI&ビッグデータ▼低コスト医療診断を実現する紙・フィルム・テープチップ▼ストレスを客観的に評価するバイオマーカー――。
12月21日に都内で開催されたサステナブル技術連携促進シンポジウム「ヘルスケア」(主催:国立研究開発法人産業技術総合研究所)では、未来に希望を抱かせてくれる技術が紹介された。こうした技術をエビデンスに基づいたヘルスケア・サービスとして実現させるために、産総研臨海副都心センターが設置した「ヘルスケア・サービス効果計測コンソーシアム」が支援していくという。
しかし、シンポジウムのなかで、最も希望に満ち溢れていたのは、“3つの顔を持つ現役官僚”江崎禎英氏(①経済産業省政策統括調整官、②厚生労働省医政局統括調整官、③内閣官房健康・医療戦略室次長)の講演だったかもしれない。
医療・介護の課題として、「何のための医療か? 誰を幸せにするための介護なのか? 何を実現するための科学技術であり、研究技術開発なのか?」が問われていると語り始めた江崎氏は、イノベーションとは「常識を変えること」だと指摘。今後、お年寄りは増えないし、高齢者を75歳以上、あるいは85歳以上と定義すれば、問題はないとデータを示しながら訴えた。
ペニシリンもワクチンもオプジーボもない時代にも120歳まで生きていた人はいたし、120歳まで生きるのが“生物学的に考えれば正しい”。還暦までの人生を1周目と捉えるならば、日本の制度は61歳から120歳までの“2周目”を想定しておらず、幸せの2周目の人生モデルがないことが問題だという。
治療についても、感染症の時代は要因がシングルファクターだから病院で治せばよいが、生活習慣病の要因はマルチファクターであり、病院に来ても原因がわからない。重要な運動・食事のデータもとっていない。自覚症状が出たころには手遅れになる。どこで止めればいい?と聞かれれば、もっと前、データを5、6年とっていれば病院に来なくても「そろそろ危ない」と指摘できる。
「病院の異常な待ち時間はまったく改善されていない。私も1時間以上待って結局診てもらえなかったことを3回も経験している。忙しい人は病院に行けない。何ひとつ便利になっていないのに何がIT化だ。そもそも病院に行かないと医療を受けられないなんて、いつの時代だ」と語気を強めた江崎氏。ITを含めた医療業界の関係者に常識を変えるイノベーションを求めた。
そのうえで、「80歳になっても100歳になっても『今が一番楽しい』と言える社会をつくりたい。1周目(還暦まで)が健康なら素敵な2周目を迎えられる。2周目が1周目を支える社会にしなければならない」と締めくくった。
一方、産総研の小峰秀彦氏(情報・人間工学領域研究チーム長)は、「江崎氏が指摘していたような健康にいいこと、悪いことはみんなわかっている。それができないことがヘルスケアの問題」と述べ、不快を快に変える仕組みの必要性を指摘した。
具体的には、①現在の心身状態と将来の疾患リスクの見える化、②インセンティブの導入(保険料の割引等)、③心理学的手法の導入(参加者同士の競争やコミュニケ―ションの活性化等)――が有効だと語り、将来的には、自動車に搭載されたセンサーにより、認知症などの疾患の早期発見もAIも使いながら可能になるとの見通しを示した。
いずれにしても、江崎氏が「これからは、食事、運動、ワクワク、薬だ。もしかしたら、薬の出番はないかもしれない。薬を使うなら運動させるのか否かなど個別に対応していくことが必要」と話したように、薬は“最後の出番”として捉える必要がありそうだ。製薬企業各社も医薬品産業からヘルスケア産業へとマインドをシフトすることが求められそうだ。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。