地域包括ケアシステムで市区町村は、まだ介護保険を利用していない自立した高齢者が「いつまでも元気に暮ら」せるよう、介護予防や生活支援の事業を実施することになっている。


 この事業が、自立していた高齢者を介護保険利用へと誘導してしまっているとしたら、それは本末転倒と思うだろう。


 だが、現実にはそうなっているという話を、介護予防に特化した通所型デイサービスの体操教室を川崎市で開いている人から聴いた。この人の教室は、高齢者の自立を損なわないという意味では大変に成果を上げているのだが、利用者が増えず、経営も苦しいのだという。


 なぜ利用者が増えないかと言うと、ケアマネジャーがケアプランを組む際に、この人の教室を入れてくれないからだ。プランに組み込まれるのは、介護予防サービスを受けに来た高齢者を甘やかし、動かせないで衰えさせ、介護保険利用者へと仕立て上げる事業所だ。


 なぜ、そんな本末転倒なことが起きるのか。カギは、介護予防と介護のサービスを同じ事業所が提供していること、そしてケアマネジャーの報酬体系だ。


 要支援者に対する介護予防のケアプランは本来、地域包括支援センターが作成することになっている。しかし業務が多過ぎるため、外部のケアマネジャーに委託されることが多いようだ。その作成費用は、川崎市の場合1件4000円ないらしい。


 一方、介護保険のケアプラン作成報酬は、要介護1・2で1万530円から(取扱40件未満の場合)、要介護3・4・5なら1万3680円から(同)だ。ケアマネジャーの収入は、利用者が要支援を卒業して介護保険利用者になってくれたほうが高くなる。介護予防と介護を同時に提供する事業者としても、介護保険の利用者になってくれたほうが収入は多くなる。


 かくして、介護予防サービスを受けに来た高齢者を甘やかし、動かせないで衰えさせ、そのまま介護サービスを提供する事業所とケアマネジャーの利害が一致してしまう。チヤホヤされて喜んでいる高齢者に、自分が食い物にされていると気づけと言うのは酷な話だ。


 職業倫理にもとるのでないかと批判をするのは簡単だが、ケアマネジャーにだって生活がある。ケアマネジャーは、要介護3以上の利用者を40人抱えたとしても月の収入が50万円をやっと超えるに過ぎない。高給取りの多い医療業界とはワケが違う。


 ケアマネジャーが利用者の利益を第一に考えられず、しかもそれに対して牽制が働かないのは、制度の設計ミスとしか言いようがないだろう。そして、財源確保に汲々としている地域包括ケアシステムを今さら少々手直ししたところで、この構造が解消するとは思えない。


 制度の外に、もっと魅力的なサービスと市場をつくるしかなかろう。民の知恵が問われている。行政は制度の設計を間違えたのだから、民の試行錯誤を邪魔しないでもらいたい。 川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)