健常人の健康度合いを個別に表す「健康関数」を開発している国立研究開発法人理化学研究所の研究チームは12月26日に記者会見し、19年度以降は地域の薬局や公民館、カフェなどでも健康関数の作成に必要な計測を行い、多くのデータを収集していくとの方針を打ち出した。
健康関数を開発する「健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム」チームリーダーの水野敬氏は、「実際に処方薬を渡す際に健康指導を行っている調剤薬局もあり、調剤薬局としても“プラスα”をやっていこうという動きはある。そこに健康関数を構成する非侵襲の項目を入れていくと、健康指導をする際のバックアップデータになるのかなと期待している」と話し、生き残りをかけている調剤薬局の、患者や一般市民向けサービスのひとつになり得るとの見解を示した。
同プログラムは、理研が国立研究開発法人科学技術振興機構に、兵庫県や神戸市と共同提案して採択された5年間の事業で、来年度末に終了する(詳細は医薬経済12月15日号参照)。予算は約27億円。大学や研究機関、企業を含め、131の機関・団体が参画している(2019年1月1日現在)。事業の核となるのが一般的に健康とされる人の健康度合いを2次元マップ上に表し、今後かかる可能性のある病気を予測できる「健康関数」で、来年度末までに1万1000人を計測して完成させることを目指している。最終的には、測定参加者が自身の健康関数を見て自分に合った食事や運動、休養の取り方などの具体的なアドバイスを受けられるデジタルツールが開発される予定だ。
健康関数には保険会社や食品関連メーカーなどの企業からの注目が高く、プログラムでは健康関数を使ったビジネスやベンチャー企業の立ち上げ、人材育成なども同時進行中。プログラムが終了後は法人化され、健康関数を使った事業化に力を入れていくという。
水野氏は記者会見で、健康関数の精度は96%程度と示したうえで、採血をしなくても94%の精度があるとして「血液検査を行わなくても、高精度に予測し、マッピングが可能」と述べた。計測についても「1時間ぐらいで、皆さんが健康診断をやっているぐらいの時間に収まるような項目でできるとわかった」と、現在の健康診断にかかっている時間や項目数と比較しても、大きな負担にならないと強調した。
シンポジウムで健康関数を説明する水野氏
そのうえで、法人化以降は自身の健康関数を知りたいと思った人が、採血せずとも気軽に参加できるよう薬局や公民館、カフェでなどでも計測していきたいとの展望を示した。とくに法人化後は、健常人だけでなく患者のデータも集めて行く予定だとして、「何回もそこに通われるうちに時間的な変化を見られる。今はワンポイントでしかやっていないが、今後は未来予測をやっていくためにも、定点観測で多くのデータをしっかり蓄積するという意味で、非常に重要なフィールドになると思っている」と語った。
プロジェクトリーダーの渡辺恭良氏は、健康を意識したお菓子や料理を提供しているプログラム参画企業があり、コラボレーションが考えられると付け加えた。
◆医療介護分野との関連ビジネスも
同日午後から開かれた一般向けシンポジウムには、約230人が参加。健康関数に関するビジネスチャンスを狙った企業からの参加者が多く見られた。
同プログラム事業化グループ連携促進コーディネーターの卯津羅泰生氏は講演のなかで、プログラム参画企業について「技術のある会社はあるが、マーケットがない」と指摘。多くがメーカーや機器開発を行う会社などのため、健康関数を使ってのソリューションは提供できても、ビジネス化できるほどの市場や販路の開拓は難しいと現状を説明した。
そのうえで、「柔軟に動きやすい民間病院グループや健診事業者、まちづくり団体などにも声をかけてマッチングしようかと考えている。病院なら『(健康関数に関連する)健診ドック』『健康外来』などができるだろうか、と民間病院のいくつかと話している」と述べ、市場として医療介護分野へ進出を考えているとした。(熊田梨恵)