昨年は多くの制度改革が重なった“惑星直列”に「対応」するのが精一杯だったという受け身の姿勢をとった組織が多かったと思うが、2019年は攻めに転じてほしい。
医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインの適用と、消費税改定が実施される2019年も受け身のままでいると、組織全体のQOW(Quality of Work life)の下落が止まらなくなるからだ。 そこで2019年の新コンテンツとして、「変革期に求められる『7つの再定義』」をつくり、医薬品業界に広めていくことにした。
1つめは「MR(の役割)」の再定義である。これまでは「新薬紹介業」というイメージが強かったMRだが、情報提供に関してはICTやWEB講演会、AIなどの進展により、割合を縮小させる必要がある(縮小しても問題は少ない)。一方、重要になるのが自らの「現状維持バイアス」を打破し、医療従事者を「Clinical inertia」から解放する役割だ。とくに糖尿病治療では早期治療が重要であることは自明であるにもかかわらず、予防医療を含めて介入が遅れている。医療従事者をClinical inertiaから解放することが自社製品の実績にもつながることになる。
2つめは「(自己)評価指標」の再定義だ。売上げはわかりやすい指標だが、追い求めすぎるとMRのモチベーション低下と医師等からのシェア・オブ・マインド(SOM)の低下につながる。そこで重要になるのが、売上げとほぼリンクするシェア・オブ・ディテーリング(SOD:医師等に興味を持っていただいた時間の獲得度合)の向上だ。優秀なMRがSOMとSODが高いことは説明するまでもないだろう。
3つめは「キーアカウント」の再定義だ。これまでは、医師、施設、調剤チェーンをキーアカウントとして捉えてきたが、今後は、▼“課題”を共有する多職種▼地域医療連携推進法人▼連携ネットワーク▼フォーミュラリー影響範囲▼地域医療構想の構想区域▼自治体(最近は製薬企業も連携協定を活発化している)――などをキーアカウントとして捉え、企業とMRの役割分担をしていく必要がある。
4つめは、「マーケティングプロセス」の再定義だ。筆者が提唱する「ASICTUS」(アジクタス)の法則に基づいて、Attention(認知・注意)→Search(検索)→Interest(興味・関心)は企業中心、Consultation(相談・協議)とTrial(試用)はMR中心、そしてUsage(リピート使用)とShare(共有)はMRと企業が協力しあって高めていくことが望まれる。
5つめは、「地域包括ケア」の再定義である。地域包括ケアは在宅医療を拡大することとイコールではない。国が掲げる「健康寿命の延伸」を「重症化予防」で貢献するために、「10年後の(地域の)アウトカムを考えて、目の前の患者に対して治療を選択すること」が地域包括ケアであることを医療従事者に伝えていく必要がある。そのことが、医療従事者をClinical inertiaから解放することにもつながります。
6つめは、「アウトカム」の再定義だ。例えば、糖尿病代謝・内分泌内科のアウトカム(臨床指標)には、糖尿病患者の血糖コントロール、糖尿病患者の尿中アルブミン測定率、糖尿病入院栄養指導実施率――などが中心に掲げられているが、意外に低い糖尿病専門医の院内ステータスを上げるためには、他科との連携により病院経営的なアウトカム(例:平均在院日数、紹介・逆紹介率、糖尿病患者のがん検診率など)を向上させることがポイントになる。地域全体のアウトカムと担当施設の経営的なアウトカムにも、製薬企業とMRは貢献していってほしい。
最後の7つめは、「製薬企業」そのものの再定義だ。今後はICTの活用拡大はもちろんのこと、トータルヘルスケアソリューション企業への進化が期待される。病気になる前と治療後を含めたPatient Journeyに寄り添ったビジネス展開が求められる。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。