昨年末に開かれた厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会で、保険薬局と薬剤師には「調剤時のみならず、薬剤の服用期間を通じて、必要な服薬状況の把握や薬学的知見に基づく指導を行う」義務がある旨、通常国会に提出予定の薬機法改正案に明記されることが決まった。
報道によれば、厚労省はこの日「多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていない」と記した資料を配布。乾英夫・日本薬剤師会副会長が反発したところ、山口育子・COML理事長や中川俊男・日本医師会副会長から冷ややかに突き放されたようだ。薬剤師や薬局は頑張っているつもりなのに、患者や医師からはそう思われていないという現状が、クッキリ浮かび上がったと言えるだろう。この認識のズレが埋まらない限り、調剤薬局バッシングはまだまだ続きそうだ。
さて、とある必要から、調剤薬局の薬剤師たちが日々何をしているのか調べてみて驚いた。持参された処方箋を見て、場合によっては患者からヒアリングをして、その処方に至った保険病名を推測し、その保険病名に照らして適切な処方かどうか判断し、確信が持てない時は疑義照会し、調剤し、その後ようやく服薬指導となる。そして、それら一連のプロセスを薬歴に記録するという作業も重要だそうだ。
これが、患者からは単に薬を出しているだけに見え、医師からは下らない質問で時間を浪費させるように見える。
薬剤師が、そんなクイズもどきのことに時間と能力を使う羽目になるのは、処方箋に病名が書かれていないからだ。病名が書いてありさえすれば、ルーチンの業務は一気に減る。浮いた時間で専門性を生かしたコミュニケーションを患者や医師と行う余裕も出てくるだろう。
なお、処方箋に病名を書いたらいけないという法的根拠はない。実際、京大病院では2015年から病名を医師が記入できるようになっている。この動きを全国に広げれば、法律の条文に義務を書き込むより、はるかに効果が高かろう。
医薬分業が始まった頃を知る人によれば、当時は精神疾患やがんが明らかになってしまうことに医師側の懸念があったという。しかし時代は変わり、医師の意識も変わった。エムスリーが昨年6月に行ったアンケート調査によれば、医師の半数以上が処方箋への病名記入原則化に賛成だという。検査値も含めて情報記入が一切不要と回答したのは3.6%に過ぎなかった。
ところが、肝心の薬剤師で原則義務化に賛成なのは15%しかいない。半数近くが「医師の判断に委ねるべき」と回答し、12.5%は検査値も含めて一切不要と回答した。
慣れ親しんだ仕事のやり方を変えたくないという意識の表れなのかもしれないが、患者や医師の意識が変わったことに気づかないフリをいつまで続けるつもりか。患者や医師は、薬剤師の専門性に期待しているからこそ、厳しいことを言うのだと思う。
川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)