年末年始は雑誌編集部も休むし、世の中に動きが乏しいので致し方ないのだが、正月明けの週刊誌はたいてい、ぱっとしない。休み前に“つくり置き”した記事がどうしても多くなるからだ。お節料理のようなものである。
そんななか、週刊文春はインパクトこそ薄いが、年末年始も頑張って動いた様子を見せている。トップ記事は『いだてんスクープ』と銘打ったワイド特集で、最初の記事は『裁判所は“VIP待遇”連発 ゴーンが獄中ですがる仏陀の教え』。拘置所内で日産前会長のゴーン容疑者が仏教書を読んでいる、というだけの話だが、1月8日の勾留理由開示法廷の様子もちゃんと押さえている。
ワイド2本目の『「オレはそんなに軽いのか」安倍晋三が元旦にキレた』も、年末年始の首相の様子が取材されている。「新元号4月1日公表へ」というNHKスクープが大晦日の深夜に流れたため、メディア各社による“裏取り”の問い合わせが首相の携帯に殺到した。なんで俺に聞くのだ、と首相がご立腹、という話である。特集記事『紅白マル秘舞台裏』も、鮮度のある記事と言っていいだろう。
週刊新潮のトップは『元号誕生の「舞台裏」』から始まる特集『「御代替わり」7つの謎』。こちらは作り置き感が否めないが、2本目の記事に『「原宿竹下通り」無差別殺傷 放置したから「元旦テロリスト」に化けたイカレ男の履歴書」』という事件記事を入れているあたりは、努力を認めたい。
以下、他誌のトップ記事を見ていくと、ポストは『なぜあの家は葬式の場で大喧嘩するのだろう? お金の家族会議』、現代も『死ぬ前に用意しておくこと』と、ほぼ一緒の内容のハウツー記事。週刊朝日は『未病検査で長生きリスクに備える』という健康モノ。サンデー毎日だけは時事性のある『参院選124議席 衆参同日選全予測』だが、これとて“鮮度”のある記事とは言い難い。
各誌ともギリギリの人数で回している台所事情もわかるので、同情はするのだが、ともあれ休み明けで編集部がいよいよ通常体制に戻った新年第2号から本番勝負、ということで、2019年も何とか雑誌不況の荒波を乗り切っていってほしい。
まったく別の話だが、文春に歴史好きの実業家・出口治明氏の『ゼロから学ぶ「日本史」講義』という歴史モノのコラムがある。今週は「キリシタン禁止令の実態は?」。この手の読み物は昔から好きで、出口氏のコラムも時折斜め読みするのだが、このところ、あまりに誰も彼も“歴史本”を書き、とくに最近はウィキペディアをコピーしまくった眉唾本までベストセラーとなるご時世になり、正直、このままでいいのか、と疑問を持ち始めている。「歴史書」はやはり歴史学の専門家が書くべきで、それ以外の有象無象の作品は、あくまで娯楽読み物と見なすようにしないと、日本人の知性は取り返しがつかないことになりかねない。
出口氏は週刊誌記事では珍しく欄外に4冊の参考文献まで明記して、その誠実さは疑いないのだが、よく見るとその4冊には、歴史学を専門としない書き手の“読み物”も混じっていて、こういうところが心配の種なのだ。氏がそうだ、というわけではないが、世間には歴史好きを標榜し、実際には歴史小説や大河ドラマが好きなだけの人も大勢いる。サイエンスとSFを分けるような“線引き”が、そろそろ必要に思うのだ。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。