1月8日から11日まで米ラスベガスで開催されていた家電・技術の見本市「CES」で、積水ハウスが「倒れたら自動で119番してくれる家」なるものを来年にも発売する、と発表したらしい。
積水ハウスと言えば、地面師グループに63億円を騙し取られた被害者としてニュースを賑わせたのが記憶に新しい。彼らからすれば、こういう本業の話題で注目を集め、名誉挽回したいところだろう。
CESのニュースを見て、そんなことしか思わなかった私と、まったく違う反応を見せた知人がいた。その医師は「利用者の立場ならありがたいと思うだろうけれど、医師の立場では地域にとって極めて迷惑な施設と考える」と言い出したのだ。
どういうことか。
積水ハウスは、倒れているのを見逃したら損害賠償の訴訟リスクに晒される一方、間違えて119番してしまっても痛くも痒くもないので、センサーの感度を甘く設定するに違いない。これが医師の理屈で、言われてみれば確かにそうだ。
その結果、不要の119番が増えることになる。そして、救急隊は119番で呼ばれた場合、本人が拒否しない限り必ず医療機関へ搬送する運用らしい。必然的に、地域の救急医療がパンクすることになる。今でさえ過労の医療従事者をさらに疲弊させることになるし、本当に一刻を争う人からしても迷惑なことこの上ない。医療機関へと救急搬送されたら、それなりの措置はされることになるので、無駄な医療費も膨れるだろう。
なぜこんなことになるかと言えば、積水ハウスが119番以降のコストをまったく負担しないからだ。要するに、公的医療サービスにタダ乗りする前提でサービスを設計している。社内で検討した際にも、恐らく問題にならなかったのだろう。
それもそのはず、実はこのようなタダ乗りビジネスは、積水ハウスが今回初めて考え出したわけではなく、すでに警備会社が広く提供している見守りサービスも、警備員の出動と同時に救急車を呼ぶようになっているという。警備員では搬送の必要性を判断できず、どうせ呼ぶのだから一刻も早く、という論理らしい。
地域医療に携わる人たちは以前から問題意識を持っていたようなのだが、恥ずかしながら、まったく気づいていなかった。ありがたいサービスと思っていたものが、公共財へのタダ乗りで成立していたとは! こんなタダ乗り、単なる悪知恵だ。「民の知恵」とは呼びたくない。
救急医療が本当にパンクしてしまう前に、タダ乗りをどこまで許すのか、防ぐ方法はないのか、広く議論したほうがよさそうだ。
川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)