社会人1、2年目は、富士通のワープロ「OASYS」で書いた原稿を広告代理店の営業担当が取りに来て、レイアウト後の内容のチェックをFAXでやりとりしていた。
その後、Windows95の登場により、原稿のやりとりはeメールで行うようになった。最近は原稿の修正もスキャン→eメールで済ませている。
なぜ、こんなことを思い出したのかというと、年初に情報誌『DIME』が公開した「「ワープロはいずれなくなるか?」という質問に30年前のメーカー各社はどう答えた?」を読んだからだ。とくに、東芝の外しっぷりが面白い。
東芝「そんなこと誰が言っているのですか。パソコンとワープロはこれからますます共存共栄していきますよ。今はワープロとパソコンの台数がほぼ同数ですが、将来的には、ワープロ10に対してパソコン1ぐらいの割合になると思います」
この特集を読んで最初は笑っていたのだが、だんだん笑えなくなった。30年前のワープロとパソコンの比較は、今日の人間とAIに置き換えられると思ったからだ。
現在は、人間とAIは共存できるという意見が大半だが、こうした意見も“30年後”には未来の読者に笑われているかもしれない。
自動運転によりドライバーの仕事はAIに置き換えられるだろうし、建築もAI搭載のロボットが大工の仕事を奪うだろう。我われの業界もいずれは“変な(無人)クリニック”や“無人調剤薬局”が登場し、患者の話し方やしぐさなどから認知症が疑われる場合には、近隣の専門医にメールが届き、リアルな医師が患者宅を訪問することくらいまでは、容易に予想できる未来だ。
先日、講演会でご一緒した病院幹部が「患者にダ・ヴィンチと人間のどちらの手術にしますか?と聞くと、ほぼ全員がダ・ヴィンチを選ぶんですよ……」と話していた。おそらく「失敗しないから」だろう。
審判を下すのは顧客(患者)である。30年後には「昔は人間が手術していたらしいですよ」と言われているかもしれない。情報提供の仕事も、MRよりAIを含むICTがいいと判断されれば、MRは仕事のスタイルを変えていかなければならない。冒頭紹介した、メールに仕事を奪われた広告代理店の営業担当者は、今ごろ違う仕事で活躍しているに違いない。これから仕事をAIに奪われる運転手や大工も、別の仕事に就くだろう。
私の趣味は落語だ。例えば、ロボットが完璧に「芝浜」を演じても、しっくりこないはずだ。やっぱり、立川談春の「芝浜」を生で観たい。落語家がいなくならないことは100%自信がある。
人間とAIが共存することを予想どおりに実現するには、人間も芸を磨き、進化し続ける必要がある。
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川越満(かわごえみつる) 1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。