子どもの7人に1人が貧困状態に置かれていることが社会問題になっている(2015年厚生労働省国民生活基礎調査)。2013年に大阪市内で起きた母子餓死事件(※)をきっかけに子どもの貧困が社会的問題化し、翌年には「子どもの貧困対策法」が施行。ほぼ無料で子どもたちに食事を提供する「こども食堂」が日本中に広まるなど、さまざまな支援活動が始まっている。


 一方、国が旗を振る「地域包括ケア」はもっぱら高齢者ケアの話ばかりで、子どもの話などまるで聞かない。同時に言う「地域共生社会」を目指すならば、将来を担う世代である子どもに対する支援も欠かせないはずだ。


 そこに気づいたアルフレッサファーマ(大阪市)は2016年から、災害用の備蓄食糧を賞味期限の切れる前に、子どもの貧困問題の支援団体に寄贈する活動を行っている。本来なら廃棄されるはずのものを活用して子どもたちを支援し、食品ロスも同時に解決している意義ある活動だ。


 同社は2011年の東日本大震災をきっかけに、国内の事業所に社員600人分の食糧の備蓄を始めた。1.5リットル入りミネラルウォーター4808本、缶入りパン2544個と大量だ。備蓄食糧は必要だが、数年経てば賞味期限が切れるため、いつか廃棄しなければいけない。食品ロスの問題もあり、年が経つにつれ担当者は頭を抱えた。


 ちょうどその時期、子どもの貧困に関する話題が世間を騒がせていた。子どもの6人に1人が貧困(2012年厚労省国民生活基礎調査)で1985年以降最低という驚きの数字が報道されたのだ。各地にこども食堂が増え始め、子どもの貧困に対する支援活動が目立ち始めた。診断薬や一般薬など小児向け商品が多い同社は、CSR(企業の社会的責任)活動で子どもへの支援活動を模索していたため、これらのニュースは自然と社員の目に入った。備蓄食料が期限切れになる前に、子どもの貧困の支援団体に寄贈しようという話が持ち上がった。


 担当者はインターネットでこども食堂や支援団体など寄贈先を検索。国内各地の事業所それぞれの近隣にある子ども食堂やフードバンクなどに贈ることになった。


 大阪本社では、市内で子どもの貧困に対するさまざまな取り組みを行っている認定NPO法人CPAO(Child Poverty Action Osaka:しーぱお、徳丸ゆき子理事長)への寄贈を決めた。他にも子ども食堂はあったが、担当者らが「ホームページを見ると、きめ細かい訪問活動やキャンプなどもされ、活動内容が一般的な子ども食堂とは違うと感じた」ことが理由。直接CPAOに連絡を取り、1.5リットル入りミネラルウォーター1256本、缶入りパン624個を寄贈したいと伝えた。


 CPAOの徳丸理事長は、アルフレッサから連絡を受けた際、量の多さに「受け取り切れるだろうか」と心配になったという。「ただ、子どもの貧困問題に関心を持って、わざわざ調べてくださるという心のある方々だと思いました。その思いも、贈っていただく食糧も大切にさせていただこうと思いました」と振り返る。当時はCPAOが移転し、以前より広い事務所に移ったタイミングだったため、受け入れることができた。


 2016年3月末、アルフレッサの担当者らが食糧をCPAOの事務所に運び込んだ。ミネラルウォーターは事務所の壁に積み上がった。 


壁いっぱいに積みあがったミネラルウォーター4808本(アルフレッサファーマ提供)


 担当者の瓜生修氏が驚いたのは、運び終わった直後に、徳丸氏が缶入りパンの入った段ボールを車に積み込み、食べ物に困っている家庭に届けに出かけたことだった。瓜生氏は「3月は春休みの時期で、給食がなくてお昼ご飯を食べられない子どもたちがいる。そういう大変な時期なのだと聞き、今この瞬間にも困っている子どもたちがいるんだという現実を知りました。『早速1箱持っていきます』という言葉を聞いた時には、涙が出そうになりました」と、子どもの貧困の現実を生々しく感じたと語る。2018年も、大阪本社は期限切れ前の缶入りクラッカー624缶をCPAOに寄贈した。 


缶入りパンを子どもに届けようと車に積み込む徳丸氏(同社提供)


 同社が2018年度までに、日本全国の子ども食堂など支援団体に寄贈した合計は、ミネラルウォーター1.5リットル入り4808本、同500ミリリットル入り960本、缶入りパン・クラッカー4704缶。


「子どもの貧困」という現実を知った瓜生氏らは、支援活動を継続したいと思うようになったが、備蓄用食料は賞味期限が長く、毎年は出ない。そこでCPAO側が2018年12月に同社に出向き、子どもの貧困に関する現状をプレゼンテーションして寄附を募った。これを受けて大阪本社では、CPAOに寄附金を贈ることを検討中で、継続的な支援につながりそうだ。


 備蓄食料の寄贈はあくまで同社のCSR活動の一環であり、「地域包括ケア」が意識されていたわけではない。しかし今回のように、食べ物が大量に余っているところがある一方で、その日の食事に困る子どもがいるほど、ないところにはない。双方がなんとかしたいと思っていても、「今はどちらもがマッチングできていない状況」(徳丸氏)。


 今回はさまざまなタイミングが重なって同社からCPAOへの継続的支援へと発展したわけだが、民間と民間がつながり、既存のものの価値を再認識して活かしていくことも「地域包括ケア」「地域共生社会」のひとつの形だろう。瓜生氏が「たくさんのことはできませんし、小さなことからコツコツとやっていきたいと思っています」と語るよう、何も新しくハコモノをつくったり、イベントを企画したりせずとも、ちょっと仕組みを工夫するだけで地域のためになることもあるのだ。(熊田梨恵)


(※)大阪の母子餓死事件…2013年5月、大阪市内北区のマンションで母親(当時28歳)と長男(3歳)の遺体が見つかり、「最後におなかいっぱい食べさせされなくて、ごめんね」というメモが残されていた事件。