JR立川駅の駅ビル内で内科・小児科・皮膚科などを標榜しているナビタスクリニック立川が、診療室内にVR(仮想現実)システムを導入(実証実験開始)したというので見学に行ってきた。


 どれほど凄いシステムなのかと思っていたら、通販なら2000円程度で買えるVRゴーグルだけだったので拍子抜けした。VRアプリの入ったスマホをレンズに向けて装着して、レンズ越しに仮想現実の画像を見せる。


 希望する患者(小児を想定)は、無償で貸与されるゴーグルを頭から被る。目の前に広がるのは、カラフルな魚の泳ぐ海中か宝箱探しの仮想空間だ。患者の側には気が紛れる(恐怖心が和らぐ)というメリットがあり、医療提供側には患者の動きが小さくなる分、抑える労力を減らせるメリットがある、との想定で導入実験は始まったという。


 恐怖心が和らぐと言えば、多くの子どもにとって最も怖い医療行為と思われる「注射の際に使うんだろうな、それなら役に立ちそうだ」と思った。


 ところが現時点では、あまり使えないようだ。ゴーグルを被れるようになる3歳頃までに定期接種のほとんどが済んでしまっており、任意接種にしても、インフルエンザワクチンのように季節性の需要ピークがあるものでは、いちいち時間をかけて使っていられないという。


 ダメじゃないかと早合点してはいけない。ある程度の時間を必要とする外科的処置や入院中の治療の際に使うなら有用ではないかというのが、同クリニック・久住英二理事長の見立てだ。つまり病院で導入したなら、もっと役に立つかもしれない。


 そんなことがわかったのも実証実験をしてみたからで、2000円のゴーグルひとつで実験を始められる敷居の低さは驚異的だ。実験してみて、想定が間違っていたなと思ったら、より役に立つような使い方に合わせてアプリを改修すればよい。  このスピード感は、システム開発者が、医療機器としての承認や保険適用をめざしていないからこそ、とも言える。


 ちょっと話が横道に逸れるが、最近、プラセボ効果はバカにならない、積極的に活用すべだ、と思うようになった。


 プラセボ効果を説明し得る仮説のひとつが「期待」だ。いいことがあると思うといいことが起き、悪いことが起きると思うと悪いことが起きる。そんな不思議なメカニズムが、人体にはある。その観点から言えば、子どもたちに診療室を恐怖の空間として認識させるのか、楽しくワクワクする空間として認識させるのかは、治療効果を左右するほど重大な意味を持つ可能性がある。


 製造販売を承認されるような機器に落とし込むだけが、技術の使い道とは限らない。  川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)