病院の看護師長にとって、自分の病棟の看護師勤務表をつくるのが、業務の相当部分を占めるらしい。


 売り手市場ゆえ、休みなど極力希望に沿う形で気分よく働いてもらわねば辞められかねず、一方で同時に勤務する看護師たちのレベルをバランスよく分散させるといった実務上も、患者数に対して看護師数が足りない時間帯を絶対につくらないといった診療報酬請求上も、同時に満たさなければならない要件は数多くあり、しかも1個動かすと全部動いてしまうという複雑極まりないパズルだ。自動作成ソフトもあるにはあるが、出来上がった勤務表をそのまま使えるようなものは、ほとんどないという。


 勤務表作成に時間を取られれば取られるほど、現場に出て目配りする時間は減るわけで、勤務表作成の手間を軽減できれば病院経営に大いにプラスとなる。


 そんななか、大変に評判のよい自動作成ソフトがあると知らされ、開発した会社の社長を紹介された。


 驚いたのは、その社長が出した名刺で、本業は都内にある100床規模の療養病院の事務長だという。元々はシステムエンジニアだったのだが、電子カルテシステム導入のために派遣された客先の病院にヘッドハントされて、現在の職に収まったらしい。


 以来、事務長業の傍ら、病院に必要と思われるシステムの内製化を続け、看護師勤務表作成ソフトも、そのひとつとしてつくった。出来がよかったので、病院の関連会社を設立して、他の病院へも販売を始めたところだという。


 事務長だけでも忙しかろうに副業までしてと思ったのだが、社長曰く、自分がエンジニアでもあり事務長でもあることのメリットは極めて大きいという。


 すべて完璧にできるソフトは世の中に存在しない。何かを選ぶ代わりに、何かを捨てる、その勘所が大事らしい。病院経営のために何が重要で何が重要でないかわかっているし、業界の言葉もわかる、そしてソフトのどこを改修するのが最も費用対効果が高いか、大体想像がつく。だから、医療の仕組みをよく知らず、しかも工数分だけ費用請求できるがゆえに費用対効果を考えないシステムベンダーが、システムのことをよく知らない事務方からヒアリングしてつくったソフトに負けるわけがない。


 実際、評判を聞きつけた国内大手のシステムベンダーが、ソフトを売らせてほしいと言ってきて、会社に出資してもらったうえで業務提携することになりそうだという。どうやら、そのシステムベンダーは、医療機関だけでなくコールセンターなどの勤務表作成用にも売り込もうとしているらしい。


 医療業界は、金回りがいい間に、こういう優秀な人材をどんどん取り込んで、効率化を進めるべきではなかろうか。 川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)