芸能事務所内部に派閥争いがあるか否か。要約してしまえば、ただそれだけの話でしかない。にもかかわらず、それが巻頭《ブチ抜き10ページ》もの超特大記事となり、グイグイと読者を引き込んでゆく。ヴェールに包まれた人物への肉薄、そして目の前で繰り広げられる出来事の「臨場感」がなせるわざである。 


 今週は文春のスクープ『本紙記者の面前でSMAPマネジャーを一喝! ジャニーズ女帝メリー喜多川 怒りの独白5時間』が、群を抜くインパクトを与える記事だった。 


 サブタイトルもべらぼうに長い。『「次期社長は娘のジュリー。対立するならSMAPを連れて今日から出ていってもらう!」1月13日、東京・乃木坂のジャニーズ事務所。メリー氏は30年ぶりにインタビューに応じた。娘・藤島ジュリー景子氏とSMAPの育ての親、飯島三智氏の“後継争い”について聞くと、「失礼な。私に刃を突きつけているのと同じ。飯島を読んで!」』 


 記事の内容もほぼこれに尽きているのだが、要はあの男性アイドル事務所ジャニーズを弟の社長・ジャニー喜多川氏とともに切り盛りするメリー副社長への単独インタビューである。記事によれば、目下ジャニーズ事務所のタレントは、メリー氏の娘・ジュリー氏と敏腕スタッフ飯島氏の勢力に二分され、両者の間には確執があるのだという。嵐やTOKIOなどはジュリー派で、SMAPやキスマイは飯島派に分類されるらしい。 


 しかし、メリー氏は記者によるそんな指摘を真っ向からはねつけ、派閥争いの存在を否定しただけでなく、その席に飯島氏を呼びつけ、こうした“噂”が流布していること自体、飯島氏の不手際だ、とすさまじい剣幕で延々と叱責した。メリー氏は、“噂”が事実なら「今日から出ていってもらう」とまで飯島氏に言い放ったという。 


 このような光景そのものは、さまざまな組織内部で珍しくないはずだが、取材記者の面前でそれが繰り広げられることはめったにない。だからこそ、文春はこれほどの構えで記事を組んだのだ。 


 “臨場感”と言えば、ちょうど約1年前、筆者もマイアミでヤクルトの主砲・バレンティン選手の夫人から夫への愚痴を聞かされているさなかに、裁判所命令で自宅への出入りを禁じられている当のバレンティンが押し掛け、窓をこじ開けて乱入したあげく、警察に逮捕される一部始終に居合わせたことがある。 


 取材記者稼業を約30年やっていても、こんな場面に出くわすことは、めったにない。できることはただ息を飲み、成り行きを目に焼き付けることだけだ。今回もそんな空気だったに違いない。 


 それにしても、昨今は企業や団体など、組織内の出来事に関しては「危機管理」と称し、世間の目に触れぬよう覆い隠す風潮が、かつてないほどに強化されている。社会的・経済的に大きな影響力をもつリーダーであればあるほどに、“組織の陰”に隠れようとする。 


 胆力のあるカリスマ経営者のメリー氏ならではのことなのだろうが、取材者すら呆然とするほどに、内幕を公開した今回の振る舞いには、逆にそのインパクトゆえに、周囲を黙らせてしまう迫力があった。中途半端な隠し立てをして取り繕うよりも、すべてをさらけ出してしまったほうが、よほど効果的な“危機管理”になる場合も存在するのである。 


 気圧された記者による今回の記事はこう結ばれている。


《ジャニーズタレントは、この〝ビッグママ〟の底知れぬバイタリティによって統治され、守られている》


 そこには文春らしい底意地の悪さやトゲはなく、メリー氏への畏怖がそのままに綴られている。メリー喜多川氏、あっぱれである。

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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。1998年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。2007年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町:フクシマ曝心地の「心の声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。