自費リハビリを提供する脳梗塞リハビリセンターが、VR(仮想現実)を使ってリハビリする「mediVR」というシステムを導入したというので体験に行ってきた。同じ「mediVR」という名前の会社の製品で、経済産業省が主催するジャパンヘルスケアビジネスコンテストの2018年グランプリ受賞作品だそうだ。


 自覚的には、椅子に座りヘッドギアを着け、腕を動かしてゲームを楽しんだだけなのだが、それで歩行に必要な、①筋力、②姿勢バランス(体幹)、③認知処理能力(同時に2つの課題をこなす)のうち、②と③の2つを鍛えられるらしい。


 これまで、その2つを鍛える手段はほとんどなく、結果としてリハビリして筋力はあるのに歩けない、という人が大勢いるのだという。デモでは、小脳出血で10年歩けなかった40代女性が週に1回か2回のペースで2ヵ月間使い続けたら歩けるようになった、という事例などが紹介されていた。歩けなかった人が歩けるようになったら、それは間違いなくいろんな意味で社会の役に立つだろう。


 さて、mediVRの原正彦社長は、島根医大を卒業し、大阪大学で博士号を取得した38歳の循環器内科専門医。なぜ循環器内科専門医が、リハビリのシステム開発をしているのかと思って尋ねたところ、「循環器内科医である前に医者なんで、患者さんが困っていることを何とかしたいと考えてきた」とソツのない答えが返ってきた。


 しかし、どう考えても普通の医師がやることではない。原価30万円のシステムを初年度350万円、2年目以降は120万円(法人向けの場合)で提供するから丸儲け、でも導入した側も1日1万円の収入があればペイするのだから1日4人に20分ずつ介護保険や健康保険を使って提供すれば2年目以降は利益が出る、と堂々と語る(ただし、保険を使わずマルメ料金の脳梗塞リハビリセンターの場合、完全にセンターの持ち出しのはず)。弁理士会から知財優良企業のナンバー1に認定されていて、似たようなシステムをつくろうとする会社があったら全部潰す、とも言っていた。


 そして、後から言われて気づいたのは、仮想現実の中に文字がほとんど出てこないことで、ほぼそのまま海外でも売れることを意識して最初からそうつくったらしい。頭が良すぎる。


 以前から原医師のことを知っている知人によると、医師の論文代筆業など、とにかく常人には思いつかないビジネスを次から次へとつくってきたようだ。  思うに、課題を見つけて、ビジネスに組み上げていくのが楽しいのだろう。本人にとっては一種のゲームなのかもしれない。


 彼のような天才が、楽しみながら活躍できる社会にしておけば、まだまだ日本も捨てたものじゃないと思う。


 川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)