恥ずかしながら、つい先日まで知らなかったのだが、高齢になると、てんかんを発症する人が増え、その症状が認知症と紛らわしいもの、認知症と合併するものがほとんどらしい。国内のてんかん患者数は60万~100万人と推定されており、生涯通してみると100人に1人は発症するそうだ。
てんかんは、脳神経細胞の異常な興奮によるもので、細胞自体は機能している。認知症は、脳神経細胞が機能していない。認知症そのものを治療する薬はない一方、てんかんの発作が起きないようコントロールできる(とされる)薬は、存在する。
よって、本人や周囲の人間のQOLのためには、両者を鑑別し、てんかんに関しては服薬で発作が起きないようコントロールするというのが望ましい。てんかんの症状を認知症と誤認して、認知症対策しかしないと、発作が続くことによって脳組織がどんどん傷み、本当に認知症になってしまう。
が、その鑑別には脳波検査が不可欠で、数少ない専門医でないと、てんかん発作の脳波と咀嚼などのノイズを見分けるのが難しいうえに、連続数日間の脳波を測定したとしても、てんかん発作の脳波が出ているのは数分程度しかないということで、対象となる人を漏れなく鑑別診断するなど夢のまた夢だ。
そこに先月末、東大先端科学技術研究センターや自治医大脳神経外科、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターなどの共同チームが、脳波データからてんかん発作の脳波を検出する人工知能(AI)の開発に成功したというニュースが飛び込んできた。
朗報だと思った。このAIが本当に使えることが前提ではあるが、あまねく普及するとさまざまな効果を期待できる。
冒頭に、てんかんを「コントロールできる(とされる)薬が存在する」と書いた。カッコ書きを付けたのは、その審査報告書などを読むと、国内治験で対プラセボの有意差を示せなかったりしていて、本当に効くと言っていいのか疑問を感じずにいられないからだ。
AIを使って、服薬前と服薬後、実薬とプラセボの発作回数や時間を比較すれば、薬の実力が明らかになるだろう。
また、実際の診療で用いられている薬が、その患者に効いているのか、効いていないのかの判定もできるようになる。
てんかん患者が苦しむ自動車運転禁止の問題も、解除できる人たちが出てくると思われる。それは彼らの就労の幅を広げるだろう。
医療費の適正化、患者や家族のQOL向上に大いに役立つに違いない。
川口恭(ロハス・メディカル編集発行人)