私は下戸でも酒豪でもないが、二日酔いになるほど飲んだことがない。オクトーバーフェストのニュースでうら若き女性までがグビグビとジョッキを飲み干す姿を見ると、ドイツ人は平気な顔でいくらでも飲めてしまうのではないかと思うが、そういうわけでもないらしい。
◆研究デザインには乾杯!結果は・・・
The American Journal of Clinical Nutritionの2019年2月8日号に、「ビールとワインのちゃんぽん飲みが二日酔いの度合いに及ぼす影響」を検討した原著論文が掲載された。研究を行ったヴィッテン/ヘアデッケ大学(Uni Witten/Herdecke)は、1980年に設立されたドイツ唯一の私立総合大学だ。
ドイツでもフランスでも古くから、二日酔いを防ぐ飲み方として「ビール→ワインはOK、ワイン→ビールはNG」とされているという。そこで、研究者らはこの言い伝えの真偽を大真面目に検討した。
18~60歳の健康なボランティアを募り、年齢、性、体重、身長、BMI、飲酒量、二日酔いの頻度を合わせた3人組にしたうえで、介入群(①②)と対照群(③)に、無作為割り付けした。 ①は、1回目の実施日にビール→ワインの順で飲み、1週間以上のウォッシュアウト期間を経て、2回目の実施日にはワイン→ビールの順とする。 ②は、ビールとワインの順を逆にして①と同様に飲酒する。
③は、1回目の実施日にビールまたはワインのいずれかだけ飲み、1週間以上のウォッシュアウト期間を経て、2回目は1回目と違う方を飲む。
いずれの場合も飲酒後にkg体重あたり6mLの冷水を飲み、実験施設で寝た。
飲酒の度合いは容量ではなく呼気のアルコール濃度で統一し、ビールは0.05%以上、ワインは0.11%以上まで飲酒。飲酒前および血中アルコール濃度が0%に戻ったときに身体検査を実施した。 また、飲酒後の酩酊度合いを0~10のスケールで、二日酔いの酷さについては8項目(喉の渇き、疲労、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、頻脈、食欲低下)について0~7のスケールで答えてもらった。
参加した105人35組のうち90人30組(19~40歳、平均年齢23.9歳、男女半々)が試験を完了。その結果、ビールかワインかの種類や、飲む順番による二日酔いの度合いに有意差はみられなかった(P>0.05)。むしろ、本人の感じる酩酊度合いや嘔吐が、二日酔いの予測因子であった。
この研究では、添加物の影響を最小限に抑える意図か、ビールは1847年のレシピに基づくピルスナーを、ワインは2015年の白のビオワインを用い、同じ温度で提供したという(研究とはいえ美味しそう)。研究者らは検証の限界として、ビールやワインの製法・添加物の多様性を挙げたうえで、二日酔いは過度の飲酒を防ぐ生体反応であるという点ではメリットがあるとし、「乾杯!」で考察を締めくくっている。
◆パイロットだけじゃない飲酒問題
一方で、乾杯ばかりしていられない事件もある。代表例は、2018年10月に起きた「日本航空のロンドン事案」。副操縦士が常務前日の夕食にビール1870mL、ワイン1500mL(ボトル2本)を飲酒。規定に反して機器による自己アルコールチェックを行わず、編成の操縦士間の相互確認をすり抜け、航空機に向かうバス内で運転手が気づき、逮捕されたという事案だ。 欧州・英米とも、商業運行する操縦士に許されるアルコール検出の上限は、「ほろ酔い期」にも達しない「爽快期」レベルだが、この副操縦士の場合は「酩酊期」相当だった〈図1〉。同時期に過度の飲酒で乗務不可となり遅延を生じたANAウイングス機長の場合、アルコール9単位相当を飲んでいたというが、その量がいかに多いかは明らかだ〈図2〉。
こうした事案を受けて国土交通省は、2018年11月に「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」を立ち上げ3回の検討を行った。その結果、血中や呼気のアルコール濃度は、欧米並みの基準値を設定することが提案されている。
2013年以降、乗務前のアルコール検査等で、乗務に影響のある飲酒が発覚した例は37件、欠航や遅延が発生した事案は20件だったという。パイロットだけでなく客室乗務員でも、サービスが一段落して疲れが出たためギャレーでスパークリングワインを飲んだ、トイレでビールを1缶飲んだのち仮眠したなどの例があったという。 今年2019年の超大型連休に航空機の利用者が増えることは確実だ。ストレスフルな職業とは思うが航空従業者にはプロ意識を、企業には個人の意識だけに頼らない防止の仕組み構築を期待したい。(玲)