「過大な数字目標は心理的によくない。お金が関わる目標を医師には持たせない。多い症例と少ない雑務。これが医師にやりがいを感じてもらう大前提」――。社会医療法人ペガサスの馬場武彦理事長は、2月28日に都内で開催された医療勤務環境改善マネジメントシステム普及促進事業「TOPセミナー」(厚生労働省委託事業)で講演し、①働きやすい環境か?②やりがいのある仕事か?③仕事以外も充実しているか?――が働き方改革における雇用の3つの視点だと述べた。


 ペガサスグループは、子育て世代の職員を支援する目的で「院内保育所」を整備しており、学童保育の終了までに小学校へ子供を迎えにいくサービスも提供している。このほか、無料で英会話教室、書道教室なども提供している。同時に子供がまだ小さい職員には、「フレキシブル勤務制度」(パート勤務のみ)も提案している。


 また、悩みを相談できる「職員ポスト」により、看護師たちが高額エステの被害に遭っていることが判明したことをきっかけにエステの法人契約を決めるなど、安心して働きやすい環境を整えているという。


 さらに、馬場記念病院の勤務医に実施したストレスチェックの結果から「医師にとって超過勤務・当直は直接的なストレスの原因ではない」と指摘し、勤務環境改善と同時にやりがいがある職場づくりの重要性を示唆した。


 同セミナーでは“タスクシフティング”(業務の移管)というキーワードが何度も出てきた。タスクシフティングには緊急的な取り組みとして、▼初療時の予診▼検査手順の説明や入院の説明▼薬の説明や服薬の指導▼静脈採血▼静脈注射▼静脈ラインの確保▼尿道カテーテルの留置(患者の性別を問わない)▼診断書等の代行入力▼患者の移動――の9種類が候補として挙げられているが、馬場理事長は「(全国的に)特定看護師の取り合いになる」と予想した。2017年に四病院団体協議会が実施した調査によると特定看護師が勤務している病院は全体の8.5%にとどまっているが、勤務している病院ではタスクシフティングが進んでいることがわかっている。


 タスクシフティングは、薬関係では「薬剤師外来」や「PBPM」「地域フォーミュラリー」などに拡大される可能性があり、MRに活動にも影響を及ぼしそうだ。


 馬場理事長の後には、厚生労働省の安里賀奈子氏(医政局医療経営支援課 医療勤務環境改善推進室長)から行政説明が行われた。安里室長は、働き手が少ない社会=働き手の獲得競争が厳しい社会だとして、魅力ある職場づくり=働き方改革だと語った。そのキーワードとして、▼チーム医療▼複数主治医制▼タスクシフト・タスクシェア▼医療連携▼柔軟な勤務形態▼院内保育所▼多職種連携――などを掲げた。


 特定社会保険労務士で、メディカルケア・ワークデザイン研究会の福島通子氏からは、都道府県立病院を対象とした調査研究結果を踏まえた解説があった。福島氏は副業容認の動きが不安材料とし、安易に認めるとリスクが大きいことを示唆した。この件については、参加者から「兼業が勤務時間に含まれると大学が医師を派遣してくれなくなり、地域医療が崩壊するのではないか」と心配する声もあった。


 いずれにしても、4月以降に「タイムカードがない病院はアウト」(馬場理事長)だ。以前指摘したように、今後は講演(説明)会の開催(特に院内)も難しくなるだろう。得意先の働き方改革の取り組みを把握したうえで、その取り組みに逆行しないような情報提供・収集活動のあり方を模索しなければならない。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリスト®事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリスト®とは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。