かんぽ生命保険の不適切販売を報道したNHKの番組を巡り騒動になっている。発端は、昨年4月に放映された同番組で「郵便局が保険を“押し売り”?! 郵便局員たちの告白」というタイトルの「クローズアップ現代+」なる番組だ。NHKはSNSで広く情報提供を呼びかけ、提供された情報を基に取材を深めて製作したという。さらに昨年の8月に同番組の第2弾として取り上げるため同番組のホームページやツィッター、フェイスブックに提供を呼びかけるネット動画を配信した。


 これに激怒したのが日本郵政と傘下の日本郵便、かんぽ生命の3社。3社社長の連名でNHK会長宛に「内容が一方的で、かつ、事実誤認がある」との抗議文を送った。それに対してクローズアップ現代の番組担当幹部が「番組製作と経営は分離し、会長は番組制作に関与しない」と語ったとかで、郵政3社の怒りがヒートアップ。「NHKはガバナンスが働いていない!」と、NHKの経営委員会宛に抗議文を送り、NHK会長の回答を要求したという。


 この問題は国会の予算委員会でも問題視され、郵政側はNHKへの抗議に、放送行政を管掌する総務省の元事務次官だった鈴木康雄上級副社長が登場し、圧力をかけたのではないか、という問題に発展している。同時にNHK内で経営委員が干渉したのではないか、等々、問題になった。


 NHKの経営委員会が問題に嘴を入れたのかどうかは不明だが、郵政側が元総務次官の上級副社長が登場させ、圧力をかけたのは当たり前の話だ。ジャーナリスト、マスメディアの世界ではこういう圧力があるのはいつものこと。取材先のトップや影響力があると思われる立場の人が、社長や会長宛に抗議文を送るのは常にある。そういう抗議文はたいがい秘書が開封して編集長に渡す。編集長は内容を読んだうえ、担当者に渡し、担当者は「担当者から返答します」と反論書を送付するものだ。報じられたほうが圧力をかけてくるのは当たり前で、それを押し返すのもジャーナリストの仕事である。


 最初の抗議にNHKはきちんと反論したのかどうか。反論していれば、郵政側は反論した人宛に次の抗議文を送らざるを得ないはずである。まぁ、さらに上の立場の人に再抗議文を送ってきたなら、また担当者が回答すればいいだけだ。ジャーナリストやマスメディアの世界に生きるなら、相手側の圧力かどうかなど議論にならないはずである。


 そもそも、私はNHK以上にかんぽ保険は嫌いだが、この騒動ではNHKの取材方法に問題がある。ジャーナリストなら、ネットで情報を集めるなど、もってのほか。ジャーナリストのことを、テレビではディレクターとか読んでいるそうだが、記者は自分が聞いた、あるいは教えられた話から取材を始めるものである。その材料を耳にするために、あちこち付き合いを広げ、耳をそばだてる。取材では話してくれないような人にも説得して真実を話してもらうのが仕事だ。


「ネットで情報を募る」など、呆れてものが言えない。さらに「情報をもとに取材を深めた」とは何たる言い草か。ネットでは大概、匿名だし、相手がわかっても、その相手は取材側に呼応する話になる。隠そうとする相手を説得し、協力してもらうのが取材の醍醐味である。最初から呼応してくれる人、賛成してくれる人を取材するのでは取材とは言えない。


 だいいち、ネットで情報提供者を募るなら、記者もディレクターもいらない。ネットに流れる話を読めばいいわけで、番組は不要だし、テレビなぞいらない。ネットでも流れない真実を伝えるのがジャーナリズムであり、マスメディアのはずだ。ネットに頼るような番組では郵政側から抗議されても仕方がない。NHKを庇ってやりたくても、とても庇えない。いっそ、“皆様のNHK”に徹して娯楽番組だけにしたほうがよほどマシだろう。(常)