「ビンテージ」にNewがつくのだから、最近のワインの醸造年か、新品同様の古着か。いやいや、これはミュージカル『ザ・デイサービス・ショウ~It’s Only Rock’n Roll』で、「新しい高齢者」を表したコトバだ。


◆メインキャストの平均年齢は76才


 中尾ミエさんがプロデュースし、「高齢者介護の現実を知ってもらうために」始めたこのミュージカルは、2015年の初演から再演を重ねてきた。開場前から長い列をつくった観客を見ると、ウィークデーの日中でもあり高齢者の姿が目立った。会場では、そう高くはない段差でも歩きにくそうな人がいたかと思えば、途中休憩後に自分の席を探すのに苦労する姿も複数あった。


 舞台はある施設。5人の高齢者がデイサービスに毎日集まってくる。ある日、かつてのスター矢沢マリ子(中尾ミエさん、73才)が訪れ、お定まりのレクリエーションに素朴な疑問を持つ。「荒城の月」や「花」、小学校唱歌も悪くはないけど、それって明治時代の歌でしょ。今の高齢者が若い頃に心躍らせたのはもっと別の曲のはず。


 そんなとき、いつも皆と交わらず部屋の隅にいる男性が口ずさむ歌にマリ子が気づく。Everybody loves somebody sometimes…。そうそう、お気に入りは、シナトラ、プレスリー、ビートルズ、ロックンロールだったんじゃない?そこで、まずハーモニーを教え、「私たちは/新しい高齢者/Newビンテージ」、「ルーキーzi-zi」「funky pretty little ba-ba」として発表会デビューしよう!という運びとなり、それぞれ気分がアガるニックネームをつけてもらう。

 

 遠目には、いや近くで見ても高齢者には違いないのだが、この人たち、歌声や、エレキギター・キーボードなどの楽器演奏がびっくりするほどうまい。鮮やかなオレンジ色のブラウスと白いプリーツスカート、金色のハイヒールとポシェットで登場した中尾ミエさんのあでやかさと、よくとおる声にひけをとらない存在感だ。


 改めてキャストに目を凝らすと、ジョーこと松井譲治(ビートルズ日本公演の前座も務めた尾藤イサオさん、75才)をはじめ、テリーこと藤堂輝男(劇団四季で長いキャリアを誇った光枝明彦さん、81才)、マーシャルこと北原勝(ギタリストでもあるモト冬樹さん、68才)、リンダこと林田ヨネ(かしまし娘でギターを弾いていた正司花江さん、83才)、ナタリーこと名取さち(宝塚の娘役トップだった初風諄さん、78才)と、錚々たるメンバーだった。対する介護職員役は、20代、40代、50代の3人。


開場前から多くの高齢者が列をつくった 


◆デイサービス「あるある」

 

 舞台の前半は、ちょっとブラックなデイサービスや介護の実情も、ミュージカル仕立てで語られる。


 唱歌を歌わせるのは「無難」だから。なんだっていいんですよ、一日過ごせれば。デイサービスに来るのは、「家族が日中いない」か「家にいられると邪魔」だから。


 マリ子さんは介護の現実なんて全然わかってない!朝来たらさりげなく体調をチェック。食事のときは誤嚥がないよう見守るけど、本人のペースまかせではいつまでたっても終わらない。お風呂も入れて、わがままに付き合ってもうクタクタ。だから仕事帰りの電車でシルバーシートに座りたくなっちゃう。


 勤務時間が終わり、「さあ合コン」だと思っているときに帰りそびれたナタリーを「車で送っていって」と先輩に指示された最若手の坂本クン。車椅子におとなしく座らないナタリーに思わず「このクソババァ!」と怒鳴ってしまう。あ~僕だって最初はどんな利用者さんにも優しく接する天使のような職員になろうと思っていたのに。そして、「介護職の皆さん、こんなふうに言ってしまったこと、一度もないって誓えますか?」と会場に語りかける。


 元校長先生のテリーは「年をとると丸くなるって、ありゃ嘘だ」「元々の性格が濃縮されコチコチの岩みたいに頑固になる」「ローリングストーンみたいに転がりたくても転がれない」と歌う。介護現場では、そんな高齢者の心情をおもんばかる余裕がないときも多い。


「唱歌や古い歌謡曲が好き」というのは決めつけ? 


◆デイサービスは人為的なコミュニティ


 後半は「マリ子さん、死す」という突然の知らせで、全員が遺影を前に、マリ子さんに楽しさを教えてもらったロックンロールを次々と披露する。ところが実は生前葬だったとわかり、大団円。テーマ曲に合わせた手振りを観客に教え、会場も一体となって盛り上がる、という展開。


 この日2019年11月7日は、「グランドフィナーレ」と銘打った一連の公演の最終日でもあり、終演後に作詞・作曲を担当した山口健一郎さんと演出・振付の本間憲一さんも舞台に登った。ミュージシャン、劇作家の山口さんは、介護福祉士でもあるという。


 筆者は管理栄養士学科の学生として老人保健施設(老健)に実習に行き(と言ってもほんの2年前だが)、提供側の立場でデイサービスを経験した。午前10時頃からのレクリエーションタイムは、「憧れのハワイ航路」に合わせた簡単な体操から始まり、脳トレ的なクイズをする。「べらんめぇ」調の女性(元職員で80代半ばの看護師さん)が担当する日は、皆楽しそう。利用者の中には、積極的に答えて場の雰囲気を明るくする人もいれば、静かに楽しむ人もいる。


「ご近所」のコミュニティが失われた地域が増えるなか、デイサービスは高齢者にそうした場を人為的につくる側面もあるように思った。


 出演者自身、何もしなければ「往年のスター」だが、このミュージカルに出演することで、楽器やダンスもどんどん上手になったという。年月を経て程良い味わいが出た高齢者が、新たな役割や生きがいを得て輝く「Newビンテージ」になる。そんなことを教えてくれる舞台だった。

 

Newビンテージが楽しめる時代は来るか 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。