●まだ低い外来のGE金額ベース


 このシリーズでは医療費適正化への地域の取り組みとして、大阪府の後発医薬品(GE)使用促進の事業をテキストに考えていくことにしている。なお、大阪府のGE促進事業ロードマップは本稿③末に添付しているので、ご参照されたい。


 前回からは、保険者との連携を軸に、協会けんぽのまとめた府内の薬局に対して行う「ジェネリック医薬品に関するお知らせ~貴薬局の調剤状況について~」の中から、6項目のインフォメーション内容を紹介した。


 主なデータを見ると、「協会けんぽ加入者への調剤状況」では、当該薬局の18年度のある月の協会けんぽ加入者とその調剤数量を示し、例えば人数は、「当該薬局で調剤を受けた協会けんぽ加入者数は256人」とのデータを、その薬局が存在する二次医療圏平均と大阪府平均との比較もみせ、そのなかで、「後発医薬品を調剤した加入者数とその割合」も、それも二次医療圏と府平均の比較でみせる。さらにそれを数量データに置き換え、GEのある先発医薬品の数量割合、GEの調剤数量、GE数量割合を示し、同様に金額ベースでも示した。


●レセプト全国平均からみた大阪の実態


 個々の調剤薬局の状況に関しては、前回詳しく述べたので、今回は協会けんぽ大阪支部がまとめた資料から大阪のGE使用促進に関する特徴と課題をみる。このデータは、8月に開かれた「大阪府後発医薬品安心使用促進のための協議会」で、同協会大阪支部が補足資料として提出した、「全国版ジェネリックカルテを用いた協会けんぽ大阪支部の課題特定」。全国との比較を中心に、GEへの切り替えの影響シミュレーション、地域での使用偏差、加入者拒否割合などのデータが示されている。医療機関だけでなく、協会けんぽ被保険者の調剤に関する課題も汲み取る工夫を示している。


 データの前提を紹介すると、基本資料は大阪府下7817医療機関と、3880薬局の協会けんぽレセプトデータ。「全国版ジェネリックカルテ」は、協会けんぽが17年から進める後発品使用促進事業で提示している全国偏差指標である。今回の大阪支部補足資料では、この「偏差値」の全国平均を50として、大阪の位置づけをいろんな角度からアプローチしたもの。資料の説明によると、ここで使われる「影響度」とは、偏差値50からの差分が大阪府全体の後GE使用割合に与える影響を示す。「影響度-2」だと当該指標が府全体のGE割合を2.0%引き下げていることになる。なお、「影響度」は、該当指標の全体平均からの差分に数量構成割合の比率を乗じて算出している。


 同資料では、まず「大阪府下医療機関・薬局の偏差値と影響度の比較」を示し、課題の見えるグラフを提示した。ここでは、偏差値を縦軸に、影響度を横軸として、偏差値50と影響度-1.0を中軸に4領域に分割、プロットを示した。4領域のプロット状況は以下。


①領域1最優先課題分野=成績が悪く、マイナス影響も大きい領域。最優先で改善が必要。

・「診療所院外GE割合」偏差値40、影響度-2.0、

・「加入者拒否割合」偏差値44、影響度-1.5

②領域2改善分野=成績は悪いが、マイナス影響は比較的小さい領域。最優先ではないが改善が必要。

・「診療所一般名処方率」偏差値44、影響度-0.6、

・「病院院外GE割合」偏差値42、影響度-0.5、

・「病院院内外来GE割合」偏差値45、影響度-0.2

・「診療所院内外来GE割合」偏差値48、影響度-0.3

・「病院一般名処方率」偏差値48、影響度-0.2

③領域3重点維持分野=比較的成績は良いが、マイナス影響が大きい領域。偏差値の水準を保つよう注意する。

・なし

④現状維持分野=比較的成績が良く、マイナス影響も小さい領域。現状を維持すれば十分と考えられる。

・「入院GE割合」偏差値54、影響度0.0

 

 この分析プロットで注目されるのは領域1で、診療所の院外処方のGE使用が小さく、その原因は加入者拒否割合の高さにあることが推定できる。大阪府では高齢者のGE使用意欲が低いといわれており、被用者保険でも高齢化率が比較的高い協会けんぽ被保険者にその一端が現れているとみることができる。そうなると、国保で同様のデータが示されるとどうなるのかにも関心は高まる。大阪府の民生部局の積極対応を促すことができるだろうか。


 協会けんぽ自身も、この結果について、①「入院GE割合」は、偏差値54(全国14位)と成績がいいので現状を維持したい②「診療所院外GE割合は、偏差値40(全国43位)と平均以下かつマイナス影響が大きいため、最優先改善項目③「一般名処方率」(病院・診療所)の偏差値に比べて、「院外GE割合」(病院・診療所)の偏差値がさらに低い。「加入者拒否割合」が全国に比べて高いのが影響か――と分析を通じながら、被保険者の意識の差にも言及している


●大阪では月6億円を超える切替効果も


 全国版ジェネリックカルテを用いた協会けんぽ大阪支部の分析は、薬局の数量ベースとそこから導かれるGEへの転換で医療費の軽減可能額の試算も示している。算定該当月は18年4月。


 それによると、数量ベースでは、「後発品のある先発医薬品」と「後発医薬品」の処方数量を合計したもののうち、GEのみの割合は全体で68.8%。類別では、入院81.5%、病院院内外来56.3%、診療所院内外来60.2%、病院院外72.4%、診療所院外72.0%となっている。


 これを金額ベースでみると、GEのある先発品+GEの、GEのみの金額シェアは全体で42.1%。数量ベース68.8%が金額ベースでは大きくそのシェアを下げる状況がよくわかる。類別では入院57.0%、病院院内外来23.2%、診療所院内外来39.1%、病院院外41.3%、診療所院外49.2%。


 GEのある先発品まで含めて、すべてGEに処方が切り替わった仮定で算定した、「軽減可能額」は全体で6億7504万4672円だが、これを構成割合でみると、病院3.7%、病院院内外来12.2%、診療所院内外来20.4%、病院院外25.7%、診療所院外37.9%となり、外来での切り替え軽減効果額が大きいことが歴然としている。つまり、薬局での処方箋調剤時に、患者に後発医薬品切り替えを推奨する意義は、想像以上に大きいことが、データ上でも説明できるということになる。


 なお、この補足資料では、大阪府の市町村版ジェネリックカルテを用いた協会けんぽ大阪支部の分析も明らかにされている。GE使用割合では、大阪市西淀川区が偏差値62、影響度+0.10なのに対し、東大阪市では偏差値45、影響度-0.24など地域間格差が大きい。診療所の院外GE割合で限定してみると、この落差はもっと大きい傾向も明らかになっている。


 一方で加入者拒否割合の地域差は、堺市東区では偏差値66に対し拒否割合は3.4%なのに対し、大阪市城東区では偏差値38、拒否割合17.0%と、こちらも偏差が大きいことがわかる。こうした分析から、地域では細かく使用促進策が寝られる方向にあることが理解できる。

 

次回は保険者も主催者となっている、具体的な地域での取り組みである体験型企画イベントなどのレポートを示していきたい。企画イベントは大阪での拒否率が高い高齢者を標的とした「個人の予防・健康づくりとジェネリック医薬品」などをテーマに行われており、大阪での自治体の強い関心を集めている。(幸)