そんなに長く社長をやっているのか―。


12月12日に開いた記者会見で、ヤマダ電機への子会社入りを発表した大塚家具の大塚久美子社長は冒頭、「社長を引き継いで11年が経ちました」と語った。創業者で実父の勝久氏からトップを引き継いだのは2009年3月。14年7月に業績不振で解任されるが、翌15年1月には取締役選任を巡って父娘が激しく対立。社長のイスを巡る委任状争奪戦が勃発し、久美子氏が勝利した。世間が注目し始めたのはこの頃で、お家騒動は始まって5年程度と思っていた。


人事のゴシップばかりが強調されるが、大塚家具の混乱は家具小売業界の衰退に原因がある。親父の経営戦略を継承していればよかった、という話ではない。日本家具産業振興会の統計データによれば、2016年における家具の年間販売額は1兆1335億円。前年比30%増と3年ぶりに大台を回復したが、1991年の2.7兆円を境に長期低迷が続いている。


家具の売れ行きを左右する新築住宅の着工戸数も減少している。一生に一度の買い物だった持ち家志向は「賃貸でも可」と居住概念の変化が起き、クルマも部屋もシェアする時代になった。一国一城の主が死語になり、家具小売業界は五輪開催や訪日外国人の増加で潤う旅館・ホテルなどの宿泊業界を相手にした法人販売に注力するほかない。


高級路線をやめて低価格化をめざせば、そこにはすでにニトリや外資系のイケアがいる。彼らは家具販売業というよりインテリア雑貨も扱うホームセンターに近い。家具一本鎗なら、両社でも厳しい経営環境に立たされるはずだ。


3年前、福岡県にある家具販売会社を取材した。ソフトバンクホークスの本拠地球場に目立つ広告看板を出している「関家具」だ。黒のスーツに真っ赤なネクタイを締めたド派手な創業者社長の関文彦氏は、大塚家具が設立された1969年の前年に家具の町・大川で独立開業した。勝久氏同様、立志伝中の人物だ。


7年間の修業時代で蓄えた資金を元手に倉庫を建てトラックを1台購入。朝に仕入れて昼に家具を小売店に持ち込み、その日のうちに仕入れ代金を支払った。家具製造業者には「12時間だけ信用をください」と頭を下げて後払いで家具を売ってもらい、信頼を勝ち取っていく。当時は「嫁入り道具」の婚礼家具が主流だったが、73年の米国視察で食器棚やドレッサーはビルト・イン(作り付け)で、家具販売のメインはベッドやソファ、テーブルなどの「脚物」(あしもの)が幅を利かせていたのを見てショックを受ける。これにヒントを得て婚礼家具路線と決別した。


その関家具は現在、銘木の一本板を素材にした高級テーブルも売るが、20万~30万円の中通価格帯の販売を基本に据えている。勝久氏と久美子氏の路線を足して2で割ったとは言い過ぎか。


大塚家具を救済したヤマダ電機も、厳しい経営が続いている。73年に群馬県高崎市で創業。2002年に家電量販業界で首位に浮上して以来、業界トップに君臨しているが、近年はインターネット通販の台頭で業績が低迷している。いま家電量販業界は「アマゾンのショールーム」と揶揄されている。昔はライバル店のチラシを持参すれば値引きしたが、いまはスマホの画面でネット通販価格を示して店員に値引きを迫る顧客が増えている。


家電量販業界には、スーパーやドラッグストアのように自社開発のプライベートブランドがなく、メーカーが開発するナショナルブランドに頼りきりだ。いったん販売不振に陥ると、自社の力だけで打開するのはなかなか難しい。安売り競争は人件費のかからないネット通販に負ける。そこで業界は事業多角化を選択することになる。


ヤマダ電機は2011年に住宅建設中堅のエス・バイ・エルを買収して住宅リフォーム事業を開始。家具とインテリアを融合させた新業態の店舗「家電すまいる館」を全国展開しているが、軌道に乗っているとは言い難い。今年2月には大塚家具とも業務提携していた。その延長線上に今回の子会社化がある。ただ住関連事業はヤマダに限らない。業界3位のエディオンも始めている。「太陽光発電」や「地デジ」、「4K」といったブームが吹かなければ弾みが付かない業界の宿命を変えていかないと将来はない。


その住関連ビジネスや家電販売事業に、決算期を変更してまで赤字減少の体裁を繕った会社の何が必要だったのか。答えは1年も経てばわかる。久美子氏の退場時期が今後の注目点というのでは、少し寂しい。


****************************************************

平木恭一(ひらききょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。

https://www.k-hiraki.com/