「桜を見る会」疑惑は国会の休会で越年になった。新年になっても「桜疑惑」は続くだろうか。新聞各社の世論調査では70%超が安倍晋三首相の説明不足と答えている。安倍内閣支持色の強い新聞社の世論調査でも説明不足と答える人は6割を優に超えていた。野党は新年になっても追及すると言っているが、飽きっぽい日本人は「もういい加減にしてくれ」と言い出すだろう。都合の悪いことには口を噤む安倍首相の逃げ切り勝ちになる可能性が高そうだ。


 この「桜疑惑」には新聞各紙が指摘するように、2つの問題がある。ひとつは安倍首相の地元の支援者たちを招待したことだ。安倍事務所から招待された支持者たちは参加費5000円で桜を見る会に参加したという。ホテルニューオータニの会合の飲食代が5000円で済むはずがない。


 新聞社を定年退職した友人の記者が開いた退職後の事務所開きのパーティの会費は1万円というのが多かった。稀に5000円というのがあったが、料理は少なく、食欲旺盛で遠慮がない記者仲間は即座に食べてしまい、「もうないのか」などと無礼なことを言っていた。安倍首相側は「多くの参加者が同ホテルに泊まったから安くなった」と弁明していたが、実際には「多くの参加者が宿泊したのは別のホテルだった」という話が出たのには大いに笑える。税金で選挙活動を行ったのは明白だ。真相究明するには安倍事務所の担当者やホテル側など関係者全員を証人喚問すべきだろう。


 もうひとつは桜を見る会の招待者名簿の廃棄処分だ。これは歴史を軽視する大問題だ。吉田茂首相時代に始まった桜を見る会は、戦後の日本を知ってもらうために開かれたそうで、当時の記録はきちんと残されている。しかも、公文書保管を決めたはずなのに、勝手に内規で1年未満に廃棄すると決めたという。廃棄したのは明らかに公文書を軽視する思考で、歴史を大切にする先進国では考えられない。


 安倍首相の立場を勝手に忖度したものだろうが、国家公務員が都合の悪いものは廃棄処分するというのは国民を馬鹿にした公務員の越権行為と言うしかない。公務員が忖度すべきなのは上司ではなく、国民に対してではなかろうか。これも国会で証人喚問し、公文書の扱いに対する公務員の考えを明らかにすべきだろう。アメリカなら下院なり上院なりで公聴会が開かれ、関係者は証言を求められ、中身によっては弾劾裁判に発展するかもしれない。


 そういえば、アメリカでは目下、トランプ大統領の弾劾裁判中だ。そのトランプ大統領批判のなかには「大統領は王様ではない」というのがあった。言い得て妙だと感心する。


 それにしても安倍首相はトランプ大統領に似ている。トランプ大統領は大統領就任後、オバマ大統領時代に制定したものを次々に廃止し、代わりの政策に変更している。メキシコ、カナダと結んだFTAの変更、パリ協定からの離脱、TPPからの離脱……といった具合だ。唯一、上手く進まないのが「オバマケア」くらいである。


 安倍首相もトランプ大統領と同様だ。旧民主党憎しで、農業政策での所得保障方式をやめ、補助金付きで減反部分を飼料用のコメに転換させている。農家は食用米生産より税金の支給で儲かる飼料用米収穫に励んでいる。ひょっとすると、外食産業で使われているコメは飼料用米ではないのか、という不安さえよぎる。


 最後まで代わるものが見つからず難航したのが新薬創出加算だったが、それも形を変えて弱体化させた。自民党を支持し続けた薬剤師会も製薬会社も安倍首相から見れば、都都逸にある“踏まれても蹴られてもついて行きます下駄の雪”としか映らないのだろう。下駄の雪扱いされた団体こそ滑稽だ。


 そのうえ、トランプ大統領は大統領選挙中の身内が関わったという「ロシア疑惑」の経歴があり、今は外交上の支援資金を使って選挙対策をしたという「ウクライナ疑惑」で弾劾裁判の渦中だ。もっとも、共和党議員が多数を占める上院で3分の2以上を確保できそうもないから弾劾されることはないだろうが、史上3人目という不名誉を蒙る。


 一方、安倍首相の「桜疑惑」はトランプ大統領のウクライナ疑惑と同様、税金を使ったテイのいい選挙対策である。首相ではなく、安倍事務所がやったことだと言い募るなら、トランプ大統領の身内や側近が行ったとされるロシア疑惑と重なる。どうみても似ていると言うしかない。似ているのは“親友”だからだろうか。


 ところで、メディアが伝えるように本当に安倍首相はトランプ大統領の“親友”なのだろうか。実は、ディール(取引)が大好きだというトランプ大統領には“親友”はいないのではなかろうか、という気がする。トランプ政権では“影の大統領”とも呼ばれた最側近の大統領補佐官だったバロン氏を筆頭に多くの長官や補佐官が次々に解任、辞任に追い込まれている。“親友”として、側近として忠告する者は気に入らないようだ。


 トランプ大統領にはディールの相手か、言うことを聞く部下しかいないのではなかろうか。“親友”であればあるほど、忠告をするし、当人も親友の声に耳を傾けるものだ。だが、安倍首相を見ていると、最近だけでもトウモロコシを買えと言われて、国内向けには「前倒しだ」と言いつつ、トウモロコシを買い、2国間交渉では離脱したTPPと同じレベルまで豚肉の関税を引き下げる。


 さらに陸上のイージス・アショアを2基買い、ステルス戦闘機を大盤振る舞いで購入することを決めている。だが、その見返りは何もない。これでは家来のようにしか見えない。本当はトランプ大統領の“親友”ではなく、ただ言いなりになっているだけに過ぎない。間違いであればいいのだが、日本の首相がトランプ大統領の家来では、日本国民はやるせない。(常)