先日、親族が救急搬送された。若干の脱水症状ではあったものの、診断はただの風邪。急遽、駆け付けた家人によれば、点滴を1本打って、抗生物質を処方され、その日のうちに無事に帰宅したという。
今回は、脱水症状だから点滴はわかるにしても、「抗生物質は風邪には効かない」はもはや常識。“治療した感”を出すための処方だったのか、正直、少し心配な病院である。
“サロン”として病院を利用している一部の高齢者は別にして、大半の人は、どこかしら具合の悪いときに病院のお世話になるはずだ。そんなとき、どう病院を選び、医師や医療とどう向き合えばいいのか、わかりやすく解説したのが、『医者が教える正しい病院のかかり方』である。
病院行く前の情報収集や検査の考え方、医師との関係、救急車の呼び方、薬の飲み方等々、大小さまざまな疑問に答える一冊である。
例えば、「通院するときの格好」では、聴診器が当てにくい〈ワンピースで来院することは不利〉、〈タイトなスーツやシャツ、ネクタイなどを着用していると、診察するのにかなり時間がかかります〉という。
「担当医の出身大学が気になる」という向きには、〈出身大学と臨床力はあまり関連しない〉と明言する(著者本人は京都大学医学部卒と相当ハイスペックな学歴だ)。そういえば、某有力私立医大の元学長も「医学部の偏差値は、今ほど高くなくてもよいと思う」という趣旨のことを言っていた。
医療の現場では、コミュニケーション能力や複雑な社会的な背景を理解するなど、受験力以外にも、求められる能力が多々あるからだろう。
■難易度高いネットの情報収集
難しさを感じたのは、インターネットを通じた情報収集の方法だ。著者は、〈① Google や Yahoo! などで検索して上位に出てきた情報が信頼できるとは限らない/②出典・参考文献の記載があるかどうかを確認する/③学会や公的機関からの情報を優先的に参考にする〉と、注意すべき3つのポイントをあげる。
広告収入が狙いの、怪しげな健康情報を流布するサイトが問題視されたこともあり、確かにそのとおり。ただ、②や③はネットや情報のリテラシーが必要で、難易度が高いと感じる人も多いだろう(親戚に元看護師の高齢者がいるが、この方法で適切な情報にたどり着けそうな気がしない)。
製薬会社を中心に、昔に比べるとわかりやすい情報が発信されるようにはなってきたとはいえ、正確さを気にしすぎるあまり、読むのがつらいサイトは珍しくない。正確でわかりやすい記事の発信の大切さを改めて感じた次第である。
ちなみに、昨今は全国紙でも広告の掲載基準が緩くなっているし、怪しげな出版物も多数出回っている。紙媒体だから安心できるというわけでもなくなった。
「何とかならないか?」と思ったのが、医療機関の間での情報共有のあり方だ。〈電子カルテの仕様が病院によって違うため、カルテを異なる医療機関同士で共有することは現在できません〉という。
そうした背景を踏まえ、お薬手帳を持参する訳、紹介状の意味、X線やCTなど画像検査の共有方法など、本書では複数の病院にかかる際のノウハウや知識が記されている。
だが、セキュリティの高い方法で、医療機関の間(介護の必要な人は介護関係者も)で共有されれば、いちいち情報を物理的に持ち歩かずに済む。患者の負担は小さいはずだし、より効率的に医療・介護の資源が利用できるはずだ。しばしば聞かされる、“個々の病院のこだわり”も理解できるが、医療・介護システム全体の利益を考えた仕組みを構築してほしいものである。
最終章の〈知っておきたい家庭の医学〉には、風邪、切り傷やすり傷、鼻血への対処法など、家庭で起こりがちなシーンを対象に医療情報や処置法が記されている。
冒頭の風邪に対する抗生物質の投与(抗菌薬を使わない、が適切)、切り傷やすり傷の消毒(一部の例外を除き消毒しない)など、少し前と大きく常識が変わっているものも紹介されている。この章だけでも一読の価値がある。(鎌)
<書籍データ>
山本健人著(幻冬舎新書880円+税)