1月12日(日)~1月26日(日) 東京・両国国技館(画像は「NHKスポーツオンライン 大相撲『おすすめ動画』」より)
(2日目/白鵬―遠藤戦)
序盤の取り組みでは、2日目の白鵬―遠藤戦が白眉だった。昨年11月の九州場所で遠藤(東前頭筆頭)が食らった右のかち上げは「エルボードロップ」と轟々の非難を浴びただけに、この一戦は注目された。張り手やかち上げは、決まれば相手の出足を止める効果抜群の反面、脇がガラ空きになって回しを取られるリスクがある。そんなことはプロの力士なら百も承知だが、白鵬戦でそれをやったのは、引退した横綱・稀勢の里くらいだった。
遠藤は燃えていた。白鵬は立ち合いで左から張り、右でかち上げるいつものパターンだったが、遠藤は真正面から横綱を凝視。張り手を無視し、かち上げを交わして左下手を捻じ込み、低い体勢で白鵬の右腰に密着しながら横綱の右足を狙う。白鵬は内掛けで凌いだが最後は見事な切り返しを浴び、もんぞりうった。土俵の土にまみれた横綱の背中が大写しになり、座布団が舞い、「遠藤」「遠藤」のコールが2度、館内に響き渡る。
(遠藤「ざまぁーッ」)
(白鵬「ぶっ殺す!」)
寡黙な力士にしては珍しく2度うなずいて舌を出す遠藤。ダブルパンチをことごとく撥ねつけられた横綱白鵬の怒るまいことか、鬼の形相だった。悪役ぶりが板に付いたとはいえ、史上最多の優勝回数を誇る大横綱。張り手とかち上げを封じられての敗戦で、その表情は殺気に満ちていた。翌日には、分のよい妙義龍(西前頭筆頭)にあっさりと突き落とされ、お約束の休場確定。「1年を3場所で暮らすよい男」の面目躍如だ。
遠藤戦の敗戦は単なる1敗ではなく白鵬の土俵人生に大きな影響を与える可能性もある。みな怖がって張り手・かち上げ対策をしなかったが、遠藤が口火を切ったことで、今後白鵬と対戦する相手は、同様の取り口でやってくる。遠藤クラスの相撲巧者でなければそれは難しいが、翌日の妙義龍戦は、明らかに立ち合いで迷った。舐めてかかった嫌いはあるが、前日の敗戦を引きずったのは誰の目にも明らかだった。
中盤からは無印に近かった正代(西前頭4枚目)が台頭、終盤まで優勝争いの先頭に立ち、幕尻の徳勝龍(西前頭17枚目)とともに1敗でトップを追走する。序盤戦の立役者遠藤は、6勝1敗と好調をキープしたが、8日目に初顔合わせで人気の炎鵬(西前頭5枚目)に敗れてから調子を崩した。テクニシャンの遠藤はこの負けがショックだった。白鵬戦が少し色褪せた。
(14日目/貴景勝―朝乃山戦)
終盤戦で印象に残ったのは、14日目の貴景勝―朝乃山戦。お互い1敗もできない状況。四つ相撲の朝乃山が左上手を取って貴景勝を投げた。負けた大関の悔しい表情にグッと来た。負け残りで土俵下に座ると、情けなさと悔しさで目が充血していた。この人は、大関になる前となった後で、語り口に大きな変化が見られる。昇進前は多弁を慎んでいたが、昇進後は口数が増えて愛想がよくなった。まだ23歳と若いが大関の自覚があるのが好ましい。部屋が変わり、昇進後には大怪我、親族が週刊誌ネタになったりと、このところ周辺が騒々しかったが、だらしない大関・横綱たちを尻目によくやっている。
優勝争いは14日目に1敗どうしの直接対決で正代に勝った徳勝龍が千秋楽に大関・貴景勝にも勝って初優勝を遂げた。優勝争いとはいえ、千秋楽で大関に幕尻を当てる取り組みは、番付がすべての世界では本末転倒。役力士が不甲斐ないせいだが、少し露骨な対戦だった。それをはねのけて賜杯を手にした徳勝龍は立派。
今場所も上位が休場や早々の負け越しで、炎鵬人気ばかりが目立った。それはそれで面白いし土俵は活気づくが、横綱や大関が健在で、イキのいい若手力士が台頭してこその大相撲。豪栄道(西大関)は来場所カド番、高安(西関脇)も次は平幕で先が見えたし、御嶽海(西前頭2枚目)は太り過ぎで稽古嫌いだから、多くは望めない。本格派で2場所連続の2ケタで来場所が大関取りの朝乃山(東関脇)だけでなく、「準優勝」の正代、そして遠藤あたりも上をめざさないといけない。新入幕の霧馬山(東前頭17枚目)が強くなりそうな予感。四つ相撲で本格派、大化けする可能性がある。
行司、呼び出しの発声に喝ッ!!
ところで、最後の2番を裁く立行司の式守伊之助 (41代)の発声が気に入らない。土俵に上がった力士の四股名を呼び上げるが、どんな四股名でも最後に「ホホーッ」となる。白鵬は「ハクホホーッ」、豪栄道は「ゴウエイドホホーッ」、貴景勝は「タカケイショホホーツ」といった具合。ホトトギスではないのだ。本人は名調子のつもりだろうが、耳触りで仕方ない。よく差し違えるし、土俵上で動き回る力士にぶつかるし、いいところがない。先場所だったか、力士に吹っ飛ばされて一瞬、土俵から消えたことがあった。ハリのある声ときびきびした行司さばきで評価の高い三役格の木村容堂が一刻も早く最後を務めてほしい。
発生で言えば、呼び出しの発声も情けない。昔は、館内に響き渡るほどの声量でテレビ桟敷にいても聞き惚れたものだった。呼び出しも時代の変化とともに節回しが一変したのか、どの呼び出しも調子外れで音感も悪く、聞くに堪えない。音痴が呼び出しをしてはいけない。プロの歌手で相撲甚句が一級品の落語協会会長・柳亭市馬師匠に教えを乞うたほうがいいのではないか。(三)