ATMの手数料を巡って銀行とコンビニが今後、駆け引きを展開しそうだ。セブン銀行のコンビニATM収益が初めて前年度実績を割り込む見通しの一方、三菱UFJ銀行は来期にコンビニATMの利用手数料を支店の混雑ぶりに合わせて変動制にする。収益力が低下した銀行のコスト削減策は聞き飽きたが、コンビニATMを事業として初めて軌道に乗せた老舗の不振は気になる。


銀行は自行の顧客がキャッシュカードを使ってコンビニのATMを利用する場合、一部の場合を除いて顧客の口座から利用手数料を自動的に取っている。そこから銀行はコンビニに対して手数料を支払っている。銀行がコンビニに支払う手数料(受け入れ手数料という)は銀行ごとに異なり一律ではないが、概ね同水準である。あくまで単純計算だが利用者は110円の手数料を負担し、銀行は平均133円の手数料をコンビニに支払っている。コンビニは133円の儲けだが、銀行は顧客負担の110円を差し引いても23円の損が出る。


セブン&アイ・ホールディングスの2020年3月期第2四半期決算資料によると、セブンイレブンなどグループ企業に設置しているセブン銀行ATMの年間総利用件数は、2019年3月が8億2900万件(銀行・7億4900万件、ノンバンク・7600万件など)だったが、今期は8億2200万件を予想。0.8%の微減ながら2001年の創業以来、初めてのマイナスである。受け入れ手数料は年間約1000億円にもなるドル箱事業であり、セブン銀行の唯一無二ともいえる利益の源泉だ。



一方、支店を減らして顧客のATM利用をコンビニに依存してきた銀行は、ここに来てコンビニに払う手数料さえも重荷になってきた。セブン銀行の提携金融機関は615社(2019年3月末現在)で、うちメガバンク、地銀などの「銀行」が124行だ。口座数などから推定すればメガバンク3行や地方銀行が主要顧客で、年間1000億円のセブン銀の手数料収入の半分程度はメガ3行からのもので、1行当たり200億円前後と思われる。これをコンビニが手にする受け入れ手数料133円と銀行の損失分23円の比率で単純計算すると、メガバンク1行がコンビニATM利用で失う手数料損益は年間34億円になる。支店を減らして顧客利便性を低下させた「報い」であり、代償の額である。これがATMネットワークシステムの維持に大きな支障を生んでいるのだ。


三菱UFJ銀は5月から、一般企業の給振日(25日や末日)などの「ピーク日」を110円から無料、夜間は220円を半額にする代わりに、平日110円の手数料は2倍に値上げする。支店が混雑している日にちや時間帯はコンビニに足を運んでもらい支店の混雑を解消するが、支店がヒマなときはコンビニに行かずに来店して銀行ATMを使ってもらう算段である。実にわがままな戦略で、「メガバンクも遂にここまで来たか」の感を強くする。もっとも、三菱UFJ銀行は過去、コンビニATMの手数料ではサークルKサンクス(現ファミリーマート)との間で揉め、無料化を進めるコンビニ側を訴えて勝訴した実績がある。



コンビニはキャッシュレス決済に敏感に反応する一方で、ATM事業にも精を出す自家撞着に陥っている。ただしその自覚はあるようで、ATMを「現金自動預け払い機」にとどまらない新たなサービスを考えている。セブン銀行はスマホのQRコードをATMに読み込ませ、チケット購入などを展開していく計画だ。現金決済が減ることはあっても増えることは考えにくい世の中である。銀行からの手数料をいつまでもアテにしていると、ATM端末のシステム維持コストが回収できなくなる。


銀行の「わがまま利用」は当然、受け入れ手数料の改定につながる。銀行のピーク時には手数料を高くし、自店が暇なときは安く設定する。コンビニも銀行と同じことをするのは自明である。問題は両者の力関係。メガバンク3行とセブンアイHDがどこで折り合うのかが焦点になるのではないか。


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平木恭一(ひらき・きょういち)

明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。

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