「社会人になったら保険くらい入っとけ!」


 1990年代の初頭には、そんな説教をたれる先輩社員が数多くいたものだ。


 勤務先に出入りする生保レディ(当時は「保険のオバチャン」という言い方が一般的だったと思う)も多く、昼休みになると、休憩室で手ぐすね引いて、新入社員や結婚間近な若手社員を待っていた。


 生保に就職した同級生からも、やけに親しげな感じで(学生時代にそうでなかったとしても)アプローチがあって、厳しいノルマを聞かされ、泣き落としに負けて、内容をよく理解しないまま保険に入ってしまった者もいたはずだ。


 もっとも、そうした若者も、学生時代や新社会人のうちに、『保険ぎらい』を読んでおけば、ムダな保険に入らずに済んだかもしれない。


 妻や幼い子がいれば「死亡保障や働けなくなったときの保障があったほうが安心だ」と言う人もいるだろう。では、どの会社の保険に入ればいいのか? 著者は同じ保障内容なら、〈迷わず保険料が一番安い保険会社を選べ〉という。保険料の違いは、〈保険の販売や維持などにかかる経費が、会社によって違う〉ことから生まれるものだからだ。


 そうは言っても、「保険会社が潰れると、万が一のとき保険金がもらえなくなるのでは?」と考える向きもあるかもしれない。しかし、心配は無用だ。預金などと同様に生命保険にも「生命保険保護機構」なる、加入者を守る組織がある。掛け捨て部分は〈ほとんど無傷で引き継がれる〉という。


 貯蓄部分については減額もあり得るが、〈低金利のいま、貯蓄型の保険に入っても、貯蓄部分はほぼ増えない〉。お金を増やしたいなら、投資、iDeCo(個人型確定拠出年金)なり、NISA……選択肢はいくらでもある。


 保険は「掛け捨てで、一番安いところ」というのが、正解だ。


■医療費控除が使える温泉も


 そもそも、保険に入る以前によく知っておきたいのが、社会保険の仕組みだ。毎月、給与から天引きされているためあまり意識をすることはないが、〈年収500万円(40歳以上)の会社員だと、年間に70万円以上の社会保険料を支払っている〉。使わない手はない。


 とくに医療費については、健康保険でほぼカバーできている。日本では、「標準治療」(なんとなく、松竹梅の「梅」のような響きだが、効果が確認されていて、保険が使える治療だ。標準治療が「松」という専門家もいる)を受けている分には問題ないはずだ。


 重い病気の場合、一時的に医療費が膨らむことがあるが、「高額療養費制度」(1ヵ月間の医療費が一定額以上になったら、超えた分が支給される制度)を使えばよい。時折ニュースになる超高額薬価の「キムリア」「オプジーボ(だいぶ下がったが…)」といった薬を使用しても、患者個人の負担は限定的である(医療財政には大きく負担がかかるが、今回は論じない)。

 

 ここまではよく知られているが、本書では高齢者療養費制度の〈世帯合算〉、健康保険の傷病手当金、仕事上の病気やケガに使える労災……など、“かゆい所に手が届く”公的制度の活用術を紹介している。


 加入している健康保険組合によっては、法律で定められた給付に加えて、独自の給付(付加給付)を設けていることもあるので、あらためてチェックしておきたい。


 第5章は保険というより、「節約術」に近い内容だが、医療費を抑えるポイントが記されている。以前は持っていくと料金がかかった「お薬手帳」も〈2016年の「調剤報酬改定」で「お薬手帳」を持っていったほうが、料金が安くなる〉という。近年は大病院の初診料も高騰しているなど、以前と状況が変わっていることもあるので、一通り読んでおくとよい。ちなみに、厚生労働省が認定し、利用料が「医療費控除」の対象になる温泉施設やジムがあるという(約800ヵ所も!)。


 公的制度を知れば、自ずと必要な保険の種類や額も見えてくるのだが、財政難から今後、保健医療の範囲や年金が制限されるリスクもある。かんぽ生命の不祥事に象徴されるように、いまだに必要のない商品を売る会社は存在する。不測の出費に備える、損を回避するという意味で、生活者にとって社会保障制度や保険の知識は必須となるだろう。


 それにしても、社会保障制度や保険が、申請しないともらえない仕組みはなんとかならないものだろうか。書類の手続きが苦手な高齢者には難易度が高い。 (鎌)


<書籍データ>

保険ぎらい

荻原博子著(PHP新書800円+税)