予算不足のため硬派の取材記事がもうほとんどない週刊朝日だが、今週は何人ものメディア関係者のツイッターに表紙写真が拡散していたので、久しぶりにその内容をのぞいてみた。表紙モデルは何と、愛くるしいポメラニアン。旬の芸能人を取り上げる通常とはまるで違う。しかも上段には「一冊まるごと犬号!」とコピーがある。出回ったツイートには、《日本の出版業界の断末魔が聞こえる》という悲痛なコメントが添えられていた。


 まさに断末魔。私もそう思った。おそるおそるページをめくると、「犬のいない人生なんて!」という見出しのもと、浅田美代子さん、大久保佳代子さん、田中美奈子さん等々芸能人7人が愛犬とともに映り込むグラビアが続くほか、雑誌終盤には愛犬を長生きさせるコツだとか、ロシアのフィギア選手ザギドワの愛犬マサルの話とか、グラビアの7人のインタビュー記事とかがあり、あとは巻末グラビア3ページに読者投稿の愛犬写真が数十枚、ぎっしり詰め込まれている。グラビアを除いた特集本文は計11ページ。さすがに「一冊まるごと」はコケ脅しで、その点はほっとしたが、それにしてももの悲しい。


 改めてバックナンバーを眺めると、当方がチェックしていなかっただけで、12月にも同様のやり口で「一冊まるごと猫号」というやつをやっていた。おそらくこの号で“そこそこの手応え”があり、味を占めたのであろう。今週の「犬号」も計算通りなら、このペット路線はこれからも、手を変え品を変え出てくるに違いない。長年の「総合雑誌」のイメージはもはや遠くなりにけり、である。


“それ以外のページ”もついでに眺めてみた。トップ記事は『コスパで選ぶ「終の棲家」』と『県庁所在地別の生活費ランキング』、ここに『「2地域居住」のススメ』ということで俳優・柳生博さんのインタビューをくっつけて、お馴染みの“終活特集”をつくっている。


 週朝と言えば、著名筆者の連載に昔から定評があり、ここにだけは今もなお、かろうじて安心感が残っていた。とくにこの号で、嵐山光三郎氏の大長寿エッセイ『コンセント抜いたか』に目が留まったのは、「坪ちゃんの読書放浪記」という見出しがあったためだ。先々週の本欄で触れた文芸評論家・坪内祐三氏の訃報、嵐山氏はその通夜に参列し、思い出を綴っていた。


 こんなくだりがある。《読書という文化のサイクルが終わろうとしている。サブカル的読書も、その実質が見えない、と坪ちゃんは危惧していた。(略)読書という文化がなくなったら、みんなアンポンタンになっちゃうじゃないの。えーっ、どうしたらいいの。(略)早世する才人は惜しいが、残されたジジイだってどうしたらいいかわからない》


 延江浩というエフエム東京プロデューサーによる比較的新しい連載コラム『RADIO PA PA』にも、坪内氏への追悼文が載っていた。2人はともに文化人類学者・山口昌男氏を師に仰ぐ30年来の間柄らしい。坪内氏の告別式で《涙で目を腫らせている若い編集者を何人も見た》と、延江氏は書いている。あくまでもタイミング上の合致に過ぎないが、今回の坪内氏の急逝で、少なからぬ人が、活字文化の終焉という歴史の転換に思いを馳せた気がする。そのことを「一冊まるごと犬号」で感じている自分も、なかなかにシュールであり、因縁を感じる。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。