この1週間は、横浜港の「ダイヤモンド・プリンセス号」が衆目を集めた。前週、各国が日本と同様に武漢にチャーター機を派遣し自国民を移送すると報じられた際は、「フライトに長時間を要すると飛行機内でも新たな感染が起こるのではないか」と心配になった。しかし、約3,700名の乗客・乗員が十数日間にわたって同じ空間内で暮らし、多くの社交的イベントが行われる大型クルーズ船はその比ではない。香港で下船した80代男性の新型コロナウイルス(nCoV)感染確認が「臨船検疫」のきっかけにはなったが、他にも感染源となる人がいた、あるいは、停留期間中にも新たな感染が起きた可能性は否めない。


 これまでの状況を受けてNHKは2月9日、朝の「日曜討論」と夜の「Nスペ」でnCoV感染症を特集。加藤勝信厚生労働大臣をはじめ、感染症の専門家、受け入れ医療機関の医師、地域医療政策担当者、心理学者など8名が登場し、①これまでにわかってきたnCoVと感染症の特徴、②チャーター便帰国者やクルーズ船乗客・乗員への対応、③国内感染拡大時の受け入れ体制、④国内での感染拡大防止策、⑤国民への情報提供、⑥今後の見通し・注目点を論じた。


 SARS(重症急性呼吸器症候群)と異なり、「比較的軽症者が多い」「潜伏期間にも感染する可能性がある」ことが、nCoV感染症の封じ込めを難しくしている。「水際対策で国内感染の拡大時期を遅らせている間に地域医療体制(迅速な検査による振り分け、軽症患者の診療、nCoV感染症以外の医療の維持)を整える」「国内で拡大期に入ったら重症者からの死亡を減らす」ことが肝要との見解が示された。


 帰国したnCoV感染症患者の治療にあたった医師が「思ったより症状は軽い」「日本を全く流行のない国にするのは難しいが、それほど深刻ではない」との印象を述べる一方で、「重症化するとSARSのように致死的になる可能性がある」「若い人でも免疫系の暴走(サイトカインストーム)が起きて重症化する危惧がある」などと指摘する専門家もいた。


 検査体制については、1月24日国立感染症研究所開発のリアルタイムPCR法による検査系が完成し、1月末に地方衛生研究所と検疫所に試薬が配布された。ただ、「Nスペ」に登場した千葉県衛生研究所の場合、現状では1日80検体が限界といい、検査対象をどこまで広げるかは難しい問題だ。「患者対応の流れ」〈下図〉も、刻々と変わるnCoV感染症の発生状況を受けて改訂されている。


 2月9日朝のニュースで横浜港が映った際、「頑張りましょう 応援しています」と掲げている船がおり、他人事(「頑張ってください」)でない表現に感心した。WHOの専門家は、「大型クルーズ船内の(経験から得られる)情報が今後の対策の参考になる」という。船内は「感染が拡大した地域」の縮図でもある。乗客・乗員の心身の不調が、「先の見通しが立たない」ストレスによって増すことがないよう、物資とともに十分な情報の提供が必要だ。




下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/390916237/



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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。