「免疫力を高める○○」「免疫力を上げる△△の方法」「××で免疫力アップ」……。誰しも、インターネットなどで、こうした広告を目にしたことはあるだろう。


 健康のために、細菌やウイルスなどから体を守る「免疫力」が大切なことはよく知られているが、正しい情報が伝わっているとは言い難い。科学的根拠が怪しい情報もしばしば登場する。


『免疫力を強くする』は、〈医学的にもっともエビデンスのある「免疫増強法」〉としてワクチン接種を取り上げ、基本的な仕組みから、感染症別のワクチン、最先端の研究までをコンパクトにまとめた一冊である。


 第1章では、細菌やウイルス、真菌などの病原体が身体の中に入ってくることや拡散されることを防ぐ仕組みについて解説する。マスクや手洗い、うがいなどの考え方は、新型コロナウイルス対策にも有用だ。


〈2011年、イギリスで行われた調査では、インフルエンザに関する限り、マスク着用だけでは予防効果はほとんどないか、きわめて低いという結果が出ています。また、同様の結果が日本で行われた小規模研究においても確認されています〉という。


 咳など、一定の症状が出ている人に関しては、飛沫感染などを防ぐ意味でマスクをする意味はあるが、健康な人が買い占めしてまでマスクをつけても、気休め程度にしかならないかもしれない。


 一方、うがいに関しては、〈水道水でうがいをした群(注:1日3回、約20mlの水道水で15秒間うがい)のみ、対照群(注:普段と同じうがい)と比べて、上気道感染を起こす率が約3割減り、ヨード水でうがいをした群では対象群と優位な差がなかった〉。手洗いについては〈ロンドンの研究者の報告によると、気道感染のリスクを2割程度下げる〉という。劇的な効果というほどではないものの、うがい・手洗いは、一定の効果がありそうである。


 注意すべきは「感染したかも」と感じたときの医療機関の受診だ。〈感染していなかった人が感染を疑って慌てて医療機関に行くと、かえって感染をもらってくる可能性がある〉。


■うやむやにされがちな補償


 第3章では、有害(とおぼしき)事象が発生すると、過度にマスコミに叩かれることもあるワクチンの基本的な考え方を解説している。


 ワクチン接種で重篤な副反応はどの程度生じるのか? 確率的には〈交通事故による死亡事故に比べるとはるかに少なく、飛行機の死亡事故とあまり変わらない程度かもしれません〉という。


 ただ、ワクチンは、〈病気の人に投与するのではなくて、健康な人に投与する〉点で通常の薬と大きく異なる。社会全体としては、ワクチンの接種がいいことだとしても、実際に、自分や家族に重篤な有害事象が出たら憤るのも無理はない。


 そこで大切なのが、救済策や補償であるが、著者は〈その運用にはかなり問題があるように見えます〉と指摘する。〈重篤な健康被害の場合には、「情報不足のため、ワクチン接種との因果関係は不明」という結論がしばしば見られ、そのまま「うやむや」になってしまうケースが多いようです〉という。有用なワクチンの接種を躊躇しないためにも、〈「推定有罪」ぐらいの態度で救済制度を適用することが必要〉であろう。


 第4章では、感染症別にワクチンの現状と問題点が記される。比較的平易に書かれており、ここだけ読んでも十分使える“お役立ち”コンテンツだ。それなりの数の同僚がインフルエンザのワクチンを接種しているが、なぜ毎年患者が出るのか、その謎も解けた。各種ワクチンの解説を読むと、摂取する人が減った年代などの注意事項もよくわかる。


 気になるのは、今後の免疫療法や新型ワクチンの行方だが、開発中の花粉症用ワクチンは、日本でも相当な需要がありそうだ。注射針を使わない注射器など薬効以外の部分での研究もなされている。


 ちなみに、免疫力は高すぎてもよくない。〈反応しなくてもよい外来性物質や自己成分にまで反応してしまい、かえって健康が損なわれること〉があるからだ。


〈暴飲暴食を控えて、寒すぎず暖かすぎずの環境の中で節度ある生活をして、毎日、適度な運動をする〉――。またもや凡庸な結論になってしまうのだが、これこそが免疫力をほどよい水準に保つ秘訣のようである。(鎌)


<書籍データ>

免疫力を強くする

宮坂昌之著(講談社1100円+税)