<昨年10月の「スタンレーレディス」最終日。ピンタレストより、2枚目も>


 今年の女子プロゴルフ開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」(3/5~3/8、沖縄・琉球GC)が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4日間ともギャラリーを入れない無観客試合で開催することが決まった。昨年10月に開かれた「スタンレーレディス」の最終日が台風19号の接近・上陸による天候悪化でツアー史上初めて無観客試合になったのに次ぐ措置だ。


「ダイキンオーキッド」の最終日には大阪で大相撲春場所が始まり、その翌週20日にはプロ野球公式戦がセパ両リーグで同時開幕する。人気のプロスポーツにも観戦自粛ム―ドを広げる勢いの新型肺炎だが、これを奇貨として応援マナー(スタイル)の見直しを強く求めたい。



 その筆頭は、なんといってもプロ野球の「風船飛ばし」である。7回になると応援歌の大合唱の直後、球場の上空目がけて一斉に舞う。6回の表裏から皆ソワソワし始める。周りを見渡せば、ほぼ全員が破裂せんばかりに膨らまして身構え前方を塞いでいるので、肝心のプレーが見えない。


 それはまぁ我慢できるとして、問題は膨らませた風船の中には各人の唾液が詰まっているのだ。風船は空中に放たれ落下するに従って萎んでいくが、その間、風船内部に溜まった唾液は球場内に撒布されるのである。これを汚くない、不衛生ではないと誰が言えるだろうか。


 いつからこの国の人々は公衆衛生に鈍感になったのか。他人の「ツバ」が入った風船の残骸が足元に落ちるだけでも怖気をふるう。それがまた、神聖なグランドに無数に落下するのである。それを拾って集める係員の身になってみるがいい。人につばを吐くのも同然である。尋常の沙汰ではない。おそらく、こんな愚行が始まった当初は、球場管理者も手を焼いたと思うが、営業優先で来るもの拒まずどころか、それがしたくて来たいならどうぞとなったのではないか。プロ野球は、近く始まるオープン戦で風船自粛か無観客試合になる可能性があるが、今季から風船飛ばしはシーズンを通して完全禁止を求めたい。


 この際、プロ野球の過剰演出と応援スタイルにも触れておきたい。どこの馬の骨かジャリタレかの始球式は即刻御法度だ。プロ野球の功労者などのレジェンドを除いては、やる意味なし。選手の登場曲もウルサイことこの上ない。申告敬遠の時代である。プロレスじゃあるまいし、さっさと打席に立て。それに場内アナウンスも、普段通り紹介してほしい。相撲の呼び出しではありません。いちいち、もったいつけるな!


 そして、これが最も声を大にして言いたいこと。応援である。選手一人ひとりに応援歌があり、大合唱である。歌の祭典である。カネや太鼓、トランペット。近ごろは指笛も響き渡る。耳をつんざくばかりである。選手のプレーはそっちのけである。3年前から生観戦はやめた。その理由がこの騒々しい応援である。乾いた打球音やボールがキャッチャーミットに収まる音はもはや聞けなくなった。一時期、「打球音を聞く日」などというゲームが年に1回はあったと記憶しているが、今や昔である。鳴り物応援、大合唱応援。それを禁止すれば、観客はたちどころに減る。プロ野球の側から応援スタイルに注文を付けることは、今後も含めて不可能である。


 だからこそ、とりあえずは「風船飛ばし」だけでも、まずは禁止にしてほしいのである。それに無観客試合も、やってみる価値はある。普段聞くことができない「音」を満喫できるはずだ。去年の女子プロゴルフの無観客試合も、中年男性の野太い「ナイスショット」「入れ!」という、おぞましい叫びがなくて清々しかった。あれは、聞いているほうも赤面するくらい恥ずかしい。


 プロ野球の応援において「多様性」は「多勢に無勢」と同義語である。少数意見は抹殺される。ウルサイなどと言おうものなら袋叩きに遭う。いろんな観戦の仕方があってもいい、という肯定論だけが生き残る。そしてそれは圧倒的大多数の大音声応援スタイルが本流となり、純粋に選手のプレーを楽しみ、両チームの秀でたプレーに例外なく拍手を送るという古典的スタイルは「無観客試合」においてのみ実現することになる。むしろ、それ(無観客試合)が今から楽しみですらある。(三)