新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最新状況や報道、一般の人の関心を知るため、日中は地上波のワイドショーや国内外の定時ニュース、夜は報道番組を流しながら、公的機関の情報をチェックする毎日だ。国内感染が各地で発表されるなか、ワイドショーが視聴者の疑問や興味をひろって話題の間口を広げているのに対し、夜の民放BSはテーマを絞って深掘りしている。


 そんな中で今週気になったのは、リスクコミュニケーションの難しさを実感させる話題。周知のとおり、神戸大・岩田健太郎教授が2月18日に横浜のクルーズ船に約2時間滞在し、YouTubeに感染対策の不備を指摘する動画をアップ。「I’m so scared」「No green zone, no red zone」という感情的な言葉が2~3秒分切り取られ、欧米ニュースの批判的な文脈に色を添える材料として使われた。


 一方、これに対する加藤厚生労働大臣の国会答弁も「現地の職員によれば、区域管理もしっかり行われている。感染症の専門家からいろいろな課題が指摘され、日々修正をしながら今日に至っている」だけでは説得力が乏しい。


 厚労省のこれまでの報道発表は状況のめまぐるしい変化に対してタイムラグがあり、内容を把握しづらいうえ、現状のリスク評価についての情報はなかった。


リスク評価なしでは国民の行動に結び付く情報を伝えられない


 そもそも体系的なリスクの評価を行っていないのであれば適切なリスコミもできないのではないかと疑って米国疾病管理予防センター(CDC)の例を紹介しようと用意していたところ、2月24日に官邸の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が示した見解でようやく前進がみられた。「2.日本国内の状況の評価」の項目でリスクアセスメントに該当する内容が盛り込まれ、「3.これまでに判明してきた事実」で全員にPCR検査ができない・有効でないことと、その理由などが記述されたからだ。



リスクアセスメントの要素が入り、従来情報より前進


パンデミックに移行する可能性の高さを明言するCDC


 いま否応なく飛び込んでくるのは「新たに感染が判明した人」の情報だ。国内外に限らず例数をカウントして累積で示せば増加の一途に決まっている。しかし、その数の中には重症化・死亡という転帰をたどる人もいれば、無症状や軽症の人、あるいは軽快して退院する人もいる。


 国民には、「数の変化」だけでなく「客観的な評価や見解」を、「BAD NEWS」一辺倒でなく気休めではない「GOOD NEWS」を伝えていく必要がある。また、クルーズ船乗客にとって「NO NEWS」だったことは、日本の対応への疑念を招いた。緊急事態への対応を妨げる「FAKE NEWS」への誤解を解くことを含め、情報を発信する者の課題は多い。


感染者の新規発生と累積数に目を奪われがちだが・・・


下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/393627494/


[2020年2月25日9時現在の情報に基づき作成]


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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。