3月に入り、中国では新型コロナウイルス(国際ウイルス分類委員会による正式名:SARS-CoV-2)の累積感染者数が8万人に迫る一方で、半数以上が治療を終えて退院、武漢でも病床に空きができて一時期の状況から脱しつつあると報じられた。1月下旬からの約3週間に感染拡大後、2月中旬以降の約2週間は新規感染者が減少傾向に転じたことになる。日本も今後1~2週間でなんとか事態を好転させたいところだ。
WHO(世界保健機関)は2月16~24日、その中国に8か国の専門家を含む25人を派遣。複数チームに分かれて北京、広東省、四川省、武漢市を含む湖北省を周り、地域病院やCOVID-19専門(指定)病院、診療所やコミュニティセンター、各種交通ハブ、PPE(個人用防護具)の倉庫、研究所、地方の衛生健康委員会や疾病管理センターなどを視察して現地担当者とディスカッションした。日本からは、高橋仁氏(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター主任研究官)が参加。2月10~15日に先遣隊が現地入りし情報共有していたのかもしれないが、2月25日にはいち早くレポートが公開された。
China CDC(中国疾病管理センター)が、2月14日までに検査室でウイルス陽性が確定した44,672人を分析した結果として、次の点は日本でも報道された。
◎20歳未満は965人(2.2%)、このうち死亡例は1人(0.1%)のみ
◎患者の大部分(77.8%)は30~69歳
◎80歳を超える患者の致死率は14.8%
◎致死率は、心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、がんなどの基礎疾患を持つ患者で高い
実はこの記述、40ページ中の5行に過ぎない。報告書には他にも参考になる情報が多々ある。とはいえ、にわかに全訳もできないので、検査や「疑い例」診療の流れに絞って紹介する。
「医療技術の水準は日本の方が中国より上」と思いがちが、そうとも言い切れない。報告書によれば、中国では1月7日にCOVID-19の原因ウイルスを分離。同16日には最初のRT(リアルタイム)-PCRキットを武漢に、19日に各省に、21日には香港とマカオに配備した。その間、1月12日には、ウイルス遺伝子配列とPCRのプライマー情報をWHOに提供したという。
中国内の封じ込め策もこの迅速さでやってくれていれば、と恨みたくもなるが、2月23日までにはCOVID-19用の検査キット10種が承認され、「週に165万件の検査を行うキャパはある」という。14億人超の人口との比を加味すると、わが国であれば週15万件に相当する。
「疑い例」診療から退院までの流れを以下にまとめた。集団発生の際に、患者を男女別のコホートに二分してしまう点など、ユニークだ。武漢市では利用可能な5万超の病床を目的別に分けた。45指定病院のうち6施設は重体患者、39施設は重症患者や65歳以上の高齢者に対応。体育館や展示場を転用した仮設病院10施設は軽症者に利用。その他、話題になった急造の病院2施設で2,600床を確保したという。
現場の医療者や研究者、政策立案者なら、中国ならではの対応、日本でも取り入れられる方法など、ピンとくるヒントがあると思う。目の前の対応に追われているかもしれないが、ぜひレポート全体に目を通してほしい。
Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/394909280/
[2020年3月2日午前9時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。