全国の消費生活センターで、リボルビング払いに対するトラブルの相談件数が急増しているという。2月下旬に朝日新聞が報じた。2018年度は2403件で5年前の2倍になった。リボ払いの苦情は消費者相談ではよくあるトラブルの一種だが、貸し手の営業スタンスは変わらないのに、愚かな利用者が増え続けている。
消費者金融の高金利を禁じた貸金業法の施行から、今年は10年の節目を迎える。細かい話になるが、同法は2006年12月から3段階で施行された。貸金業者の貸付金利が金融機関と同じ上限金利(15%~20%)になったのは2010年6月からである。信販・クレジットカード・消費者金融の主要なノンバンク業態は、この年を境にドル箱のキャッシング事業で利益が出なくなり、過払い請求に苦しむようになる。
そこで代わりに力を入れ始めたのが、銀行の消費者ローンを丸抱えする信用保証事業とリボルビングである。信用保証は、ノンバンク側が貸し倒れリスクを銀行から危険度に応じて手数料としてもらう代わりに、ローンの申し込みから返済不能の後始末(弁済)まで一切を引き受ける。サービスの名称は信用保証だが、銀行の看板を借りて個人向けローンを展開しているのと同義である。
信用保証がイコール消費者ローンなら、リボルビングもまた、金銭が商品に姿を変えた金利商売である。10万円のバッグを買っても、月々の支払いは1万円。ただし、金利が年に15%かかる。これを月に何度も繰り返すのだから、お金を借りるだけの消費者ローンよりも金利収益は増加する。結局、貸金業法ができて消費者ローンの「高金利」は表面上なくなったが、「適正金利」を積み上げる利用者が増えているのだから、実態はあまり変わらない。金を借りて金利に苦しむか、ショッピングをしてリボ金利に悩まされるか。どちらにしても金利で困窮するのに変わりがない。
クレジットカード大手・クレディセゾンの2021年3月期第2四半期業績を見ると、リボルビング残高は4251億円で、貸金業法で激減したキャッシング残高(2203億円)の約2倍。ショッピング取扱高は2兆4480億円だから、ショッピング利用者の17%から金利を稼いでいることになる。信販最大手のオリエントコーポレーションも同時期の業績で1兆1984億円のショッピング取扱高に対してリボ残高は1651億円。ショッピングの13%で金利収益を上げている。キャッシングで目減りした利ザヤをリボルビングの金利で補っている構図が浮かび上がる。
一方、利用者はどうか。ポイント還元に目を奪われてリボの魔の手にかかり泣きを見ている人が大半である。カード業界関係者によれば、各地の消費生活センターなどの相談窓口に寄せられるリボの相談は、ポイント付与に目を奪われてリボ払いであることに気づかず入会したり、リボ専用カードであることを忘れて請求時に驚いて対応に苦慮するケースが少なくないという。
「リボ専用カードは生活弱者に優しい側面もある」と大手カード会社の部長は声を潜める。「スーパーなどのレジで、『1回払いか、分割か』などと聞かれるのが嫌な人がいる。分割と答えると持ち合わせが少ない、所得が少ないと見られるのが嫌だからだ。最初からリボ設定にしておけば聞かれないし、便利という利用者も少なくない」。これを詭弁と捉える向きもあるだろうが、リボ払いの需要がゼロではない、ということは知っておいてもいい。
こう言うと、業者寄りと批判されそうだが、詰まるところ、こうしたトラブルの発生要因は使う側にも問題がある。高齢者に対する強引販売や詐欺商法は論外だが、ショッピングの当事者は、その多くが仕事をして収入を得ている生活者である。労働の対価を賃金として得ている能力があれば、分割払いに金利が生じることをわからないはずがない。買ったものの支払いを少し待ってくれるのだから、負担が生じるのは当たり前。知らずに(リボ切り替えの)ボタンをクリックしたなどという言い訳は世間で通らない。
業者の営業姿勢が変わらないのに、利用者だけは些末な特典(ポイント還元など)に踊らされる愚を犯す。だからこそ、天下の朝日新聞がことあるごとに警鐘を鳴らすのだが、そういう人たちに届いているかどうか。
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平木恭一(ひらき・きょういち)
明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。