「一億総引きこもり」である。社会評論家の故大宅壮一氏が生きていたら、たぶん、こんな風に評したのではなかろうか。安倍晋三首相が突然、発表した全国の小中高校の休校要請である。中国の習近平国家主席が国賓としての来日が延期になるとわかったとたん、後先の対策も考えず、独断で決めて発表したのだから驚く。
わが家の隣の隣は中学校だが、早速、音が聞こえなくなってしまった。日頃は朝7時前から野球やサッカー、バレーボールなど、始業時間前の部活動の元気な声や黄色い声が響いていたし、夕方から8時過ぎまで体育館から竹刀の音やバスケットボールのドリブルの音などが響き、土曜日にはブラスバンドの練習の音が聞こえていたのに、急に音がしなくなったのは、すこぶるさみしい。
隣の旦那は中学校の先生で、娘は小学校の先生だが、休校勧告後も毎朝、出掛ける。学校は休みだが、先生は出勤するのだそうだ。出勤して教室の掃除でもしているのだろうか。生徒には遊びに行かないように伝えているのだそうだが、遊び盛りの生徒が家に籠っているだろうか。テレビではタブレットやパソコンで学習しているという話を伝えているが、みんなタブレットで学習しているのだろうか。タブレットのオン、オフのスイッチを握っているのは生徒のほう。いつもオンになっているのだろうか。
今日では市内各所にコミュニティセンターというものがつくられている。なかには市役所の出張所のほか、図書館、市民サークル活動のための部屋や講堂、喫茶店まで備わっているものまであり、その一角には必ずテーブルとイスが備えられている。そこで小学生高学年や中学生が2~3人集まって教科書や学習書を開いて勉強しているのをいつも見かける。なかには突っ伏して寝ている子もいる。
だが、一斉休校以来、コミュニティセンターは休館。テーブルも椅子も取り払われている。開いているのは市役所の出張所とトイレだけだ。むろん、学習していた中学生の姿はない。隣の先生は「ゲームセンターもカラオケも18歳未満は入れないのではないか」と呑気なことを言っている。中学生たちは渋谷や原宿、池袋に大挙して出掛け、ウィルスに感染、ばら撒いているのではなかろうか。
親も大変だ。今まで女性が活躍する社会といって共働きを推奨してきたはずだ。子供が家にいることになったら、母親は仕事に行けない。父親もネット会議だ、自宅ワークだ、と言われても、周りを子供が走り回っていたら仕事にもならない。看護師の3分の1が子供の世話で休みを取っているので、勤務先の医療機関が外来を休止するというところも出たが、これではまるで逆の効果だ。
そもそも、感染者がまだ出ていない地域も含めて当然、一斉休校を要請するなど無茶だ。
一概に一斉休校を否定するわけではないが、こういう指示を出すときには、混乱を生じさせないように、企業に休業補償や有給休暇を倍にするように、あるいは、給与を保証するとか、通常の支給額の何割を支給させる。さらにその半分は政府が穴埋めする、子供たちが日中を過ごせるような場所、教育施設などを確保する方策を示すとともに、例えば、「5000億円を用意する」ということを合わせて発表しなければならない。多めの金額を示すことで企業も働く人も安心できる。
パニックを起こさせないための政策だ。それを行うのが首相の責任のはず。後になって決めたのでは、それこそ泥縄式だ。安倍首相は新型コロナウィルス対策が後手、後手に回ったことを批判されたため、慌てて一斉休校を独断で発表したのだろうが、首相の器が問われる。(常)