いつの間にか新型コロナ騒動が、世界史的な出来事になってしまっている。医学の進歩がなかったら、「肺炎で亡くなる高齢者がやや増えた」という程度の出来事に終わったかもしれないが、21世紀だとそうはいかない。実現性がある程度見込まれる間は、この新たな脅威を何とか制御するために、世界規模で人の移動や接触を減らす試みが続くのだろう。
で、ここに来て国内に現れたゲンナリする風潮は、コロナ関連の政権批判を潰そうとする極論の横行である。「諸外国に比べ圧倒的に少ないPCR検査を、せめて医師が必要性を認めるウイルス性肺炎患者には拡大せよ」という至極もっともに見える主張を、「そんなことをしたら医療が崩壊する」という極論をもって封殺しようとするネット右派世論である。
誰ひとり主張していない「希望する国民すべてへの検査」という想定に話をすり替えて、拡大論者に罵詈雑言を浴びせるのだ。沖縄の反辺野古派バッシングと同じ手口である。沖縄の多数派世論は、「これ以上の負担」を拒んでいるだけで、嘉手納空軍基地を含む米軍基地全体を「ゼロにすること」など訴えていない。だが、これがネット右派の手にかかると「沖縄の米軍基地が『ゼロ』になったら中国が攻めてくる」と論点がすり替えられ、「反日」「売国」の大合唱が始まるのだ。
そもそも素朴な感覚として、軽症の患者は病院に行かず自宅で静養すべし、という“反拡大派”の主張に、リアリティがまるで感じられないのだ。考えてみてほしい。風邪だか肺炎だかわからないが、とにかく発熱などの症状が出たとしよう。自宅で何日か寝て、熱が下がったら治った、と考えていいのか。“念のため”さらに何日か自宅にこもらなければならないのか。その期間は何日か。2週間か。「万が一、コロナだとまずいので」などという漠とした説明で、それが許される勤め先は、どのくらい存在するのだろう。そんな自主的自宅待機中、同居する家族はどうすればいいのか……。
結局、このような「検査陽性」を(検査せずに)想定した“自宅引きこもり”の実現には、医師の指導がどうしたって要る。患者の個人的判断で、自力回復後も家にこもる軽症者など、いるとは思えない。だからこそ、まずは判断の根拠となる検査が要るだろう。過去ひと月、そう主張し続けているのは、テレ朝のモーニングショー(出演者の岡田晴恵・白鴎大教授や大谷義夫医師、番組コメンテーター・玉川徹氏らの主張)だが、ここ数日、このような“検査対象拡大論”は「希望者全員検査→医療崩壊」という極論へのすり替えによって非難にさらされているのである。
今週の週刊ポストはこの件で、『反骨研究者vs.御用学者 テレビをハシゴする“感染症のプロ”を採点する』という記事を掲載し、岡田教授らに代表されるモーニングショーの論調を支持している。しかし、週刊現代は番組コメンテーターの玉川氏を俎上に挙げ、『「許せませんよ!」「ありえないですよ!」毎日口をとんがらせて一茂と政権批判 テレビ朝日の玉川さんを見て思うこと』という中傷記事を載せている。
内容は驚くほど空っぽで何もない。見出しの通り「口をとがらせていること」「上から目線なこと」、要はその態度がむかつくというだけのことだ。「言い方が悪い」「偉そう」という印象は、実際には態度でなく主張への不満から芽生える感情だ。橋下徹氏でも辛坊治郎氏でも「上から目線」「偉そう」な態度は同じだが、刃をそちらに向けないのは、このライター氏が好感を持つ論者だからだろう。そういう相手だと、似たような物言いでも彼には「痛快」に聞こえるに違いない。
しかもこのライター、言うに事欠いて、「安全地帯から弾を撃ちまくる。玉川さんはそんなスタイルだからいつまでも平社員なのだろうか」とまで悪態をついている。同じテレ朝の報道ステーションでは、硬派の中枢スタッフが最近、何人も解雇されたばかりだ。社内にそんな(政権忖度の)締め付けが強まるなか、玉川氏のようなスタンスがもはやギリギリの立場にあることは、サラリ-マンなら容易に想像がつく。週刊現代のライターは、講談社の正社員か契約記者か知らないが、自分こそ無署名記事というこの上ない安全地帯から「政権に盾突く論者への人格バッシング」をしている卑劣さに気づかないものだろうか。何とも心がささくれ立つ今日この頃である。
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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。