新型コロナウィルス感染症対策のひとつとしてマスクの転売を禁止する政令が施行された。新型コロナウィルスの世界的な流行によるマスク不足が止まらないための措置で、違反した者には1年以下の懲役、または100万円以下の罰金である。マスクをまとめ買いした人がネットオークションで高値転売していることを防ごうという政令だ。


 確かに、他人のためより自己利益を優先する利に聡い輩で、県会議員までが転売で利益を得ている。だが、この政令で転売がなくなりマスク不足が解消するのだろうか。政府は法律がないから転売を規制できないという発想だが、天下の東大法学部卒の秀才たちが集まってマスク転売を規制するために頭を絞っている光景を想像すると笑ってしまう。


 マスクの転売を目論んだ人たちは、人の鼻毛を抜くような輩である。当然、抜け道を考えるだろう。市販の化粧品や洗剤を市価の10倍で売り、「サービスにマスクを付けます」などと抱き合わせ販売をするだろう。「無償のサービスだから転売ではない」と主張すればいい。逮捕して起訴するとなると、検察は転売だと証明しなければならないし、時間もかかる。こうした抱き合わせ販売が違法かどうか、東大法学部出の秀才たちがまた頭を絞るかと思うと情けなくなる。


 ではどうするかと言えば、既存の法律を応用すればすむのではなかろうか。例えば、「転売で利益を得た人は来年の確定申告をきちんとしてください。国税庁は確定申告を待っています」とアナウンスすればいいはずだ。さらに「確定申告せずに脱税した場合には氏名を公表し、課徴金を課します」と脅せば完璧だ。そのうえで、ネットのオークションサイトやフリーマーケットアプリの業者に2月以降、マスクをオークションにかけた人物を特定して報告するように指示すればいい。もし個人情報保護だと拒否したら、その業者を社会の良識に背く会社だと公表、非難するだけのことだ。


 確定申告はかなり面倒だ。サラリーマンは年末調整で経理部がすべて処理してくれるが、マスク転売での利益を経理に伝えたら、たちまち社内に広まってしまう。個人で確定申告することになるが、申告書を書くのは面倒くさい。毎年、申告時期には税務署の相談窓口には行列ができている。その列に並ぶか、自分で説明書をよく読んで書き込むしかない。しかも、転売は事業収入だから申告書には仕入れ値を証明する書類を添付しないといけない。


 新型コロナ騒ぎの前は、マスクの価格はだいたい1枚100円程度だった。50枚入り400円程度で、ホームセンターやドラッグストアでは花粉症の時期が終わった夏以降は50枚入り1箱を200円くらいで処分売りをしていた。従って、原価はすこぶる安いはずだし、おそらく仕入れ時の領収書は持っていないだろうから、ボロ儲けとして課税すればいい。


 たぶん、マスクを転売した人は来年にはすっかり忘れているだろうから、無申告になる。脱税である。転売者の氏名はオークションサイトから提出させたリストをもとに確定申告が必要となる者を特定すればいいし、申告しなければ、重加算税を課して氏名も公表すればいい。人権無視だと言われるかもしれないが、江戸時代と違って、近代では税金はすべての人の義務である。民法の総則でも「義務の履行と権利の行使は裏腹のものだ」と謳っている。税金は所得に応じ、資産に応じ、消費に応じて支払う義務があり、脱税は仲間である国民を裏切る行為である。アメリカが脱税にはことさら厳しいのもこの所以である。


 大蔵省も法務省も自治省も役人の習性で、法律に違反したものを探し出すのは難しいから通報をしてほしいといっている。警察や検察もマスク転売の違反者を探すのは大変だろうし、起訴しても果たして有罪にできるかどうか疑わしい。しかし、脱税としての処分なら、マスク転売者から差し出されたマスク転売者リストの人に課税すれば足りる。財務省も警察も手間暇かけずにできるだろう。


 郵便番号を考えればいい。かつて郵便局は葉書や封書の宛名から配達地域を人手で区分けしていた。それを簡便にするため4ケタの郵便番号をつくったが、それでも郵便番号の区域が広かったため人手が必要だった。その後、郵便番号を7ケタに増やした。7ケタになると、市内の町名、さらに字名までの区域で判別できるから機械化も可能になった。この手法は郵便局が行う手間を国民一人ひとりに転化したものだ。


 これと同じで、国税庁もオークション会社からマスク転売者を割り出させればいいから摘発は容易だ。だいいち、マスク転売者に一罰百戒になるだろう。政府、高級官僚の頭の固さには辟易する。(常)