3月19日、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」で、また新語が登場した。突然爆発的に患者が急増する「オーバーシュート」だ。


 専門家会議が危機感をにじませるのは、既に実例があるからだろう。イランは2月20日にWHOに初報告した後、約1週間で100人に。2月27日の141人から3月3日には1,501人と5日間で10倍以上に増加した。


 一方、現在累積死亡数最多のイタリアは、初報告の1月31日から約3週間は一桁を保っていたものの、2月24日から3月2日の1週間は2日ごとに倍増、その後は3~4日ごとの倍増が続いている。


 さらに気になるのは米国。初報告は1月23日と比較的早く、100人を超えたのは3月4日。ところが、その後約2週間で15,000人を突破した。現在は2~3日ごとのハイペースで倍増。少し前まで大統領選挙の予備選が焦点だったCNNなどのメディアもコロナ報道一色だ。



 一方、WHO(世界保健機関)が「感染の抑え込みに成功した例」として挙げるのが、中国、韓国、シンガポールなどだ。中国の感染者数は2月半ば以降、横ばいになっている。韓国は2月20日から24日の短期間に約8倍に増加したものの、累積感染者数は3月14日から8,000人台のまま推移している。シンガポールは当初日本と同レベルで推移したものの、2月21日以降は一貫して日本を下回っている。


 クラスター発生と同様、オーバーシュートもきっかけが想定できるものと、そうでないものがある。前者は例えば、武漢市で多くの家族が手料理を持ち寄った「万家宴」や旧正月の催し、韓国南部・大邱での集団礼拝などだ。一方、イタリアや米国のオーバーシュートは特定の原因がわからず、「社会の中で徐々に拡がっていた」としか言いようがない。


 イタリアでの拡大原因として3月20日、WHO幹部は、「高齢化による高致死率」や「大勢の患者が病院に押し寄せ、医療水準が保てない状況」を挙げた。そこでOECD(経済協力開発機構)のデータ(2019年版)を確認すると、高齢化は日本の方が進んでいる。人口千人当たりの病床数は、日韓の4分の1ほどだが、臨床医数は多い。対策の成否次第で今後、日本でも同じ状況に陥る可能性は否定できない。


 ちなみに同じOECDのデータによると、イタリアは「自分は健康/非常に健康」と考えている人(15才以上)の割合が77.0%と、日本の35.5%や韓国の29.5%に比べてはるかに高い。COVID-19のインパクトは、心理面でも相当に高いものと想像される。



 では国内はどうか。専門家会議は「今後の対策は地域の流行の実情に応じて」と提言した。北海道の累積感染者数は全国1位ではあるが、当初の立ち上がりに比べるとグラフがなだらかになってきたのは明らかだ。一方、感染爆発が懸念される東京都では今のところ「だらだらした」増加が続いている。



 3月22日のNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるのか~」で押谷仁氏(東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野教授)は今後の対策として、厚労省のクラスター対策班で「目にみえるクラスターをつぶす」一方、一般国民には「行動変容」を求め、社会的な活動制限を最小限にとどめた「マイルドな日本型の対策を行うのが現在の戦略だ」と語った。


 3月19日のプレスカンファレンスでWHO幹部は、欧州の人々に対し「街中で医療用マスクをするのは無意味」「ひとりひとりの行動が医療機関など本当に必要な場でのマスク不足を引き起こす」と「合理的な使用」を訴えた。これからは、きれいごとでなく社会全体への影響を考えて行動しないと、結局は「オーバーシュート」や「ロックダウン(一定期間の外出自粛や移動制限)」が我が身に降りかかってくることになる。


【最新リンク】

◎新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解(3月19日)[2020年3月23日アクセス]

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/sidai_r020319.pdf


下記より今週の動きが閲覧できます(動画)

https://player.vimeo.com/video/399799630/


[2020年3月23日午前9時現在の情報に基づき作成]


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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。