■短期の感染者倍増は危ない予兆
先週の初めは、東京オリンピック・パラリンピック開催の是非が国内外の話題の焦点になっていた。ところが、3月24日に1年程度をめどとした延期が決定した翌日から、国内感染者数の増加が加速した。これを受けて海外メディアは、それまでにもくすぶっていた「日本はオリンピック開催のために検査数を抑え、感染者数を少なく見せようとしている」という見方を再度結び付けて伝えている。
また、各国の大都市が厳しい外出制限や都市封鎖に踏み切る中、3月20~22日の連休に渋谷でナイトライフを楽しむ若者の様子を批判的に報じていたが、3月28~29日の週末は「政府ができなかったことを天候がした」と、雪で人影まばらな東京の繁華街を映し出した。
過去1週間で世界流行の中心はイタリアから米国に移った。米国の感染者は3月22日の15,219人から3月29日は一桁多い103,301人へと約6.8倍に急増した。2~3日で倍増のペースだと、米国と同様の憂き目をみることになる。
2週間ほど前、トランプ大統領は早期の終息に根拠なき自信を示し、ホワイトハウスとCDC(米国疾病予防管理センター)との連名で国民に向け、感染拡大予防のための行動指針を示した。メッセージは簡潔に必要な事柄を網羅しており、内容は悪くない。ただし、「15日間」ではさすがに無理。3月29日の記者会見でこの指針の適用を4月30日まで延長する一方、次の回復目標を6月1日に定めると方針変更した。
■イタリアでの経験に学ぶ
一方、感染者数(累積)は米国を下回るものの、死亡者数(累積)が群を抜いて高い(3月17日7.2%、3月29日現在10.8%。同時点の中国は2.3%と4.0%)イタリアは、自国の経験を専門誌に伝えている。イタリア高等厚生研究所のGraziano Onder医師らは3月23日付のJAMA(米国医師会雑誌)オンライン版に、「イタリアにおけるCOVID-19関連死患者の致死率と特徴」と題した見解を投稿。同国患者で致死率が高い要因として、①人口構成、②「COVID-19関連死」の定義、③検査戦略の3つを挙げ、以下の説明を加えた。
①0~69歳の致死率は中国と大きく変らないが、イタリアではかなりの患者がより高齢で、90代以上さえいる(3月17日の死亡687人)ため、全体として致死率が高い。
②イタリアでは基礎疾患による死亡だったとしても「原因ウイルス(SARS-CoV-2)陽性の死亡者」をすべて計上している。高齢者は基礎疾患が多いため、全体の致死率が高くなる。
③当初は症状の有無にかかわらず広く検査していたが、パンデミックに先立つ2月25日に対象を厳しく絞り込み、「臨床症状からCOVID-19感染が疑われる人、入院が必要になりそうな人」に変更したため、より重症者が発見される割合が増えた。
これに対し読者からは、「致死率の高さは医療崩壊を反映しているのだろう」「イタリア北部は患者が多いが、イタリア国内や欧州他国よりは医療を維持している」「高齢者は人工呼吸器などの延命処置を望まない傾向もあるからでは」「パンデミック初期には真の母数が不明だから比較は難しい。死亡者と退院者を比較する方がよいのでは」「どの国でも感染者数等の公表について透明性が重要」などの意見が寄せられた。
JAMAはまた、イタリアでの感染拡大へと潮目が変わった「Patient1」(2月20日にICUに入院した30代男性、渡航歴・感染者との濃厚接触その他のリスクなし)を担当した Maurizio Cecconi医師(欧州集中医療学会会長)に、編集長がビデオインタビュー。「COVID-19は普通のインフルエンザとは違う。甘くみるな」というメッセージを伝えている。
勤務病院があるロンバルディア州は、欧州内でも際だって豊かな地域だ。「Patient1」とその後の患者急増に直面してすぐに地方当局と相談し、「ICU(集中治療室)のキャパ」を上げるために、緊急を要しない手術をすべてキャンセル。ただし、ウイルス曝露歴のない患者を守りながらも、「集中治療が必要な患者すべてに適切な治療を提供する」という点ではCOVID-19とその他の患者を区別することなく、院内のタスクフォースを最大化する方法を模索した。一部メディアが伝えるような、助かる見込みの少ない患者をあきらめる「トリアージ」はしていない。
また、医療スタッフを守るために、PPE(個人防護用具)を備蓄するだけでなくチームをつくって何度もシミュレーションし、互いに2m以内の濃厚接触をしないことを徹底。帰宅しても、自分の家族との接触は避けているという。
日本では3月28日に政府対策本部の「基本的対策方針」が公表され、都道府県の感染拡大状況に応じて医療提供体制を確保するための大枠が示された。Cecconi医師は「アウトブレイクやクラスターが近づいたら、すぐ計画を実行に移せ」と助言している。日頃からの準備と、判断力や柔軟性が試されるのはこれからだ。
【最新リンク】
◎官邸・新型コロナウイルス感染症対策本部(第24回)「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対策方針(案)」含む [2020年3月30日アクセス]
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020328.pdf
◎JAMA編集長によるイタリアの集中治療専門医へのインタビュー(2020年3月16日)[2020年3月30日アクセス]
https://edhub.ama-assn.org/jn-learning/video-player/18315311
下記より今週の動きが閲覧できます(動画)
https://player.vimeo.com/video/402117172/
[2020年3月30日午前9時現在の情報に基づき作成]
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記事・動画作成:本島玲子(もとじまれいこ)
「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。
医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。