ようやく2020年オリンピック東京大会の1年延期が決まった。聖火も福島に来たし、準備もしてきたのに、とがっかりした人も多いだろうが、ホッとした人も多いはずだ。なにしろ、新型コロナウイルスの感染は続いている。オリンピック主催者の東京都は感染源がつかめない感染者が増加しているのだ。


 世界に目をやれば、イタリアで爆発的な感染が起こり、フランス、スペイン、ドイツ……と拡大し、アメリカでも爆発的な感染が起こっている。アメリカでは不法移民が100万人近くいる。彼らは病院に行けば、不法移民ということが発覚し、出身国に送り返されるだろうから病院には行けない。トレーラーハウスで生活している人も多い。さらに医療保険に入れない人もいる。新型コロナ感染者はこれからも増え続けそうなのである。


 さらに南米やアフリカは医療機関の不足でどれだけの感染者が出ているのかがわからない。アフリカには中国が多額の援助を行い、つながりが深いだけに感染爆発が起こるかもしれない。


 こうした世界を見れば、どう見たってオリンピックを開催できそうもないことは見てとれる。テレビではJOC(日本オリンピック委員会)のコンサルタント氏が「戦争でもないのにオリンピックの中止はあり得ない。4年ごとに開くのがオリンピックの理念。スポーツマン・ファーストであり、理念に反する延期もあり得ない」と“理念”を強調していた。だが、誰に眼にもオリンピックの理念など変わってきていると映っている。


 遡れば84年のロサンゼルス大会では住民投票でオリンピックに税金を投入することが否決された。そんな事態にテッド・ターナー(CNN創業者)がスポンサーからカネを集めてロサンゼルス大会を成功させた。以後、オリンピックは巨大な商業スポーツ祭典に変わった。とっくに“理念”は表向きの看板になり、商業主義になっている。


 IOC(国際オリンピック委員会)自体が米3大放送局からの巨額の寄付で成り立っているし、一部のIOC委員が候補地からカネを貰っていた事件もあった。“理念”なぞ看板に過ぎなくなっているのだが、日本のJOCコンサルタント氏が看板を振り回しているのには驚いた。


 だいいち、代表選手が決まっていない国も多いし、決まっていても練習ができない状態の国も多い。コンサルタントなら予定通り開催できるか、できそうもなければ延期するかどうするかを見極めてアドバイスするのが仕事ではなかろうか。こんなことだからJOCが世界で軽く見られてしまうのだろう。


 コンサルタント氏の主張とは関係ないが、小池百合子都知事が予定通りの開催を主張するのはともかく、安倍晋三首相、森喜朗・組織委員会会長も橋本聖子オリンピック担当相も揃って予定通りの開催を主張していた。安倍首相はトランプ大統領との電話会談後、「完全な形で開催する」と語ったが、トランプ大統領は向こうの記者会見で「シンゾーはまだ決めていないと言っていた」と答えている。電話会談では強硬開催か延期か、それとも中止にすべきか迷っていた安倍首相が相談したのか、それともトランプ大統領から延期を促され、どうするのかと聞かれたのか。どうも安倍首相は国民に率直に答えないようにしているとしか見えない。


 ともかく、報道されたようにIOCのバッハ会長とのテレビ会談で延期を打診して一致したと発表。「1年以内」の延期が決まった。このときの「安倍首相からの要請」というところが大事だ。延期になったことで安心しているが、誰の目にも延期するしかないということはハッキリしている。


 その数日前に電通出身の髙橋治之JOC委員が米ウォールストリート紙に延期の可能性に触れ、「2年後がベターだ」と語っている。髙橋氏はバブル崩壊後、破綻した「イ・アイ・イ・インターナショナル」の故髙橋治則社長の実兄で、当時から電通でスポーツイベントのやり手として知られていた。IOCのなかで、アメリカのスポンサーの意向を知っている髙橋委員が暗に延期を示唆したのだろう。


 だが、延期となると、今までの準備にかかった費用を誰が負担するのか、という問題が発生する。延期を決める権限を持つのはバッハ会長である。マラソン会場を札幌に変更したとき、小池都知事から反対されても札幌開催を強行したのはバッハ会長だった。だが、バッハ会長が延期を言えば、今までにかかった費用の負担をIOCに要求される。それを避けるために日本側から延期を要請させたかったのだろう。


 といって、小池都知事はマラソンの札幌変更に強硬に反対したし、延期を言い出してくれそうもない。嫌いかもしれない。森組織委員長は頼りない人だと見ただろうし、橋本担当相はお飾りと見抜いている。バッハ会長の心理を覗けば、安倍首相が延期を要請するのを待っていたのだ。悩んだ安倍首相がいとも簡単に引っ掛かってしまった。


 安倍首相は前もって「オリンピックは完全な形でやりたい。だが、新型コロナの感染が世界中に蔓延していることを考えると延期もあり得る。それを決めるのはIOCだけである。決定の期限は少ない。3月25日までだ」と世界に向けて発信すべきだったのである。そうすれば、延期を決めるのはバッハ会長になり、当然、延期による損失の一部にしろ、負担はIOCにも生じる。


 安倍首相は延期による負担を都に押し付けるつもりだろうが、IOCに延期を要請したのは安倍首相だから、国も相当の負担をする必要があるだろう。それにしても安倍外交はなってないと言うしかない。(常)